「好きだ」が身体を満たしていく(百合。真面目×自由人。高校時代。付き合いたて)
放課後の教室。今日の夕焼けは、窓いっぱいに広がって美しい。馨くんと二人きり。机の上には、好きな画家の画集。恋人と向かい合ってそれを眺めているなんて、かなり贅沢な時間だ。
そんなことを考えていたら。
「だ、きしめても、いい、ですかっ?」
馨くんが、いきなりそう切り出してきた。声を震わせて。画集から顔を上げ、彼女を見る。彼女の顔は、当然のように朱かった。
「……めっちゃ声裏返ったね」
私は、淡々とそう返した。いや驚いてはいるのだけど。驚き過ぎて声に感情を乗せ忘れた、みたいな感じ。
「なーんで、それを言っちゃうんですか!」
馨くんが、机に突っ伏す。私は、さっと画集をどけた。セーフ。
「ごめんごめん」
それを後ろの机に移動しつつ、反対の手で馨くんの頭を撫でる。
ちら、と顔を上げた彼女の頬が緩んでいた。嬉しかったようで、何より。
「ところで、いきなりどうしたの?」
「その、画集を見ているミイさんが綺麗で、その」
「ムラムラしたの?」
「~~~~~~決してムラムラだけでなく!」
あ、ムラムラもあるのね。
そこを認めるの、真面目で可愛い。口元に手を当て、笑う。
「……あなたが愛しくて。ギュッとしたくなって」
「したらいいじゃない。私たち、付き合ってるんだし」
付き合っているということは、恋人同士ということだ。
ハグは、恋人同士のスキンシップだろう。
「そうですけど。でも、その、今はタイミングじゃないとか、色々あるかも知れないじゃないですか」
「真面目だねぇ」
「だって……あなたのことが、大好きですから」
目を伏せながら、馨くんが言った。その目元は相変わらず朱い。
私の胸が、キュンと高く鳴る。
ヴァイオリンが切なく鳴るような、あんな感じで。
だから。
「!? ミイさん!?」
その心の音色のまま、私は目の前の馨くんを抱き締めた。
温かい。馨くんのシャンプーの香りがする。お日様みたいな……多分柑橘系の、良い香り。
……好きだなあ。私、この人が好きだ。
胸いっぱいに『好きだ』が広がる。
「ふふっ。こっちからハグしちゃったよ」
机越しだけどね~と照れ隠しに笑いながら、そっと彼女を離したら。
「!」
逆に腕を優しく掴まれ、立ち上がるよう誘導される。馨くんは、いつの間にか立ち上がっていた。
「ミイさん」
そのまま引き寄せられ、抱き締められた。
ギュッと。
先程のハグよりも、ずっと強い。
「っ」
温かいよりも、熱い。柔らかいけど、確かな質量。匂いも、先程よりもずっと濃く。
馨くんを、ゼロ距離で感じている。
彼女の『好きだ』を浴びるどころか、それに浸っているような感覚に襲われた。
ふんわりとした『好き』よりも、ずっと迫力あるドキドキがやって来る。胸だけでなく、身体いっぱいにそれが広がる。
「好きです、ミイさん。大好きです」
「……私も」
すきだよ、と答えた声は、恰好悪いけれど震えていた。
腕まで震えないよう、ギュッと力を込め抱き締め返す。
好きだよ、好き。
負けじと私の『好き』も、伝え返す。
END.




