一度は言ってみたい、「面白い男」(ガールミーツボーイ。In大学構内)
面白い男だな、というのが、彼の第一印象だ。
「嬢ちゃん、傘無いんか」
「……無いですねぇ」
五限のあと。
私は校舎の入り口で、いきなり臍を曲げた空を見上げていた。
昼までは青空が広がっていたのに。
今は、空は全面曇天真っ黒だ。しとしとと降る雨は、どんどん勢いを増している。
下宿まで走って五分。たかが五分。されど五分だ。たぶん、ずぶ濡れになるだろう。
うええ嫌だなあ、と眉を顰めたのと、後ろから「嬢ちゃん」と声をかけられたのは、ほぼ同時だった。
ちらと振り返れば、背の高い男が、「おー」と間抜けな声を上げて空を見ている。
手には、ビニール傘。
見知らぬ顔だ。嬢ちゃん、と呼ばれたが、アナタもたいがい若いのでは? と思う。
まあ、大学の学生というだけで、それなりに若いはずだ。社会人聴講生には、見えないし。
「よっしゃコイツを持ってきなぁ」
「先輩は、どうするんです?」
こちらを『嬢ちゃん』と呼ぶからには、恐らく上級生なのだろう。無難に、先輩と呼ぶことにする。
「なぁに、俺ぁ濡れたってかまんさかいな」
先輩は、ぐいと私にビニール傘を押し付けると、そのまま外へと躍り出た。
「ほな!」
「あ、どうやってお返しすれば……」
「そんなビニール傘、くれてやるわ」
うはははははは!
高笑いしながら、雨の中ごきげんに走り去る後ろ姿。
……大きいから、目立つなあ。
「……何で授業後の人間が酔っぱらってるんだ?」
走り出すのと同時に、ふわっと香ったのは間違いなく酒精。
「おもしれぇ男ってやつですね」
バンッ
私は、勢いよく傘を差すと、「さてどうやって再会しましょうか」と考え始めた。
お酒を召しても記憶が残るタイプであればいいが、残らぬタイプだと困る。
このことを憶えていない可能性がある。
ならば、ドラマティックな再会あるいは初対面を演出しなければ。
面白い男には、きっと面白い女が似合いのはずだから。
雨の中を、スキップするように歩き、策を練る。
END.
一つ前の女の子(新人バイト梅ちゃん)視点。




