悪夢から、抱いて逃がして(百合。執着系後輩×おおらか先輩)
こちら『これはお別れではないから』(https://ncode.syosetu.com/n9047lt/34/)の二人。
ビリリと。
熱いような、冷たいような刺激が腰に走って。
「──ッ!」
私は思わず飛び起きた。
「……ぁ」
そこで、知る。
夢か。
夢だ、とわかった瞬間、あれだけリアルだった感触がすべて遠く霞の向こうへと退いていった。
どんな夢だったのか、もうわからない。
それなのに、恐ろしく、悲しく、痛かったという感覚だけが、妙に生々しく胸に残った。
見回した部屋は、まだ薄闇に沈んでいる。夜明け前。朝の気配もまた遠く。
「……千ちゃん?」
隣で寝ていた恋人兼後輩が目を覚ます。
「あー……あ、ごめん。起こしたね。ごめん」
「千ちゃん?」
「ごめん、怖い夢見て、飛び起きちゃって……つっても、内容はなーんも覚えてないんだけどね」
あはは、と笑って誤魔化すも、声が変に震えていて、逆効果だった気がする。
何だろう、何か、駄目だな。
「……」
私の可笑しな様子を嗅ぎ取ったのだろう。ひーくんが、無言で身体を起こした。
「大丈夫か?」
覗き込んでくる顔は無表情だったけれど、私にはわかる。彼女の瞳が、心配を湛えていることを。
「うん。だいじょーぶだいじょーぶ」
安心させたくて、無理やりにでも口角を上げた。
「腰」
「え?」
「痛いのか?」
彼女に言われて腰を見れば、確かに手がそこをしきりにさすっている。驚いた。無意識だった。
「いや、えーっと。痛くは無い、かな」
「…………」
彼女の眉が寄せられる。
そして。
「……痛いの痛いの、飛んで行け」
伸びて来た彼女の手が、そぉっと腰のあたりを撫で、パッと空へ何かを払う動きをした。
その手があまりに優しくて。
何だろう。何故か泣きたい気持ちで胸が詰まった。
「ひーくん」
ぎゅってして、と言って腕を広げれば、一瞬狼狽えたあと、彼女は黙って私を引き寄せ、抱き締めた。
いつもは苦しいくらい強く抱き締めて来るのに。
今夜は柔らかで、躊躇いがちな抱擁だった。
ここでの優しさはそっちじゃないって。
そう言うように、私は強く抱き締め返した。
夜が明けるまで、そうして二人で抱き合っていた。
END.




