忘れてやらないよ(歳の差百合。年上×年下。どちらも成人(18歳以上)
「うんうん……そう。上手になってきてるよ、芽瑠ちゃん」
「そ、そうですか……?」
土曜日の昼下がり。年上の恋人とお家デート。
となると多少のドキドキ展開を期待してしまうものの、当然そんなことにはならない。
何故なら桐子さんは良識ある大人なので。
私が二十歳になるまで(やはり桐子さんたちの世代では二十歳が成人の認識みたいだ)待つと決めてくれている。もどかしいけど、そういうところも大好きなのだ。
というわけで、私たちは平和に健全に餃子を包んでいた。
桐子さんのご実家では、よく餃子を手作りすると言う。
私は初めてで、なかなか上手くひだを作れず悪戦苦闘中だ。
「んー……。でもやっぱり、桐子さんの方が上手」
私が唇を尖らせれば、
「そーりゃそうだよ。何年やってると思ってんの」
くっくっくっ、と桐子さんが楽しそうに笑った。
お喋りしながらでも、彼女の手は止まらず、すいすいと美しいひだを作り続けている。
「物心つく前から、餃子包んでんだから」
「よく餃子パーティーをされるお家だったんですね」
「そうよー。何かあっちゃ、餃子よ」
お蔭で、大人になった今でも何かあっちゃ作っちゃう。
肩を竦める桐子さんを見て、ふとその可能性に思い至ってしまった。
「……じゃあ、前の恋人さんとも」
黙っていればいいのに、ぽろりとそれは零れ出た。
桐子さんが、くるんと目を丸くする。
「あ、あ、忘れて下さい」
頬が熱い。
じくりと痛む胸なんて、口を閉じてやり過ごせってお話だ。こういうところが子どもっぽくて、自分で自分が嫌になる。
「んー? 忘れてあげないよ」
包み終わった餃子をぽんっとバットに置き、桐子さんがこちらを見た。
楽しそうに上がった口角はそのままに。
「ど、どうして」
「だって、嬉しいもの。あなたがやきもちを妬いてくれて」
「そんな」
彼女の口角が、更にキュッと鋭く上がる。
「大人ってね、狡いんだよ」
桐子さんが、手の甲で私の頬を撫でた。
「……知ってます」
「あははは。まだまだ」
こんなの序の口だよ。
そう笑う桐子さんは、余裕そうだ。悔しい。
少しでも仕返しを、と未だ私の頬を撫ぜる手の甲にキスをしてやった。
END.




