加速する早鐘に(百合。幼馴染同士。女子高生。朝子と星音)
放課後。
朝子と一緒に帰るのは、付き合う前からの習慣だ。
特に手を繋いだりはしない。
それが少し、寂しいような。
小さな頃は、よく繋いでたっけ。親とかから言われてだろうけど。
なんて、つらつら考えていたら。
「星音、危ない」
「あ」
いきなり、手を掴まれ引き寄せられた。吃驚する私の横を、自転車が勢いよく通り過ぎていく。
「ごめん、ありがと」
ベルに気が付いていなかった。
「あんまりボーッとするなよ」
呆れたように言う朝子に、
「し、してないよ!」
慌てて否定する。
「そうか?」
「そうだよ。……たぶん」
しかしさっきは考えごとをしていたから「ボーッとしてない」と言い切るには少し心許ない。
その気持ちで付け加えた「たぶん」に、ふっと朝子が笑った。
それは思ったよりも優しい笑い方で、胸がドキリと音を立てる。
朝子の笑顔は控えめだけど、だからこそ優しさや温かみがグッと伝わって来る気がする。
ずるいなあ、余計に好きになっちゃうよ。
いや何考えてんだ、恥ずかしい。
って。
(あれ?)
気が付いてしまった。
手が、繋がったままだ。
昔から変わらない手の熱さ。ギュッと握っているはずなのに、痛くない絶妙な力加減。でも、ちっちゃな頃とは違う、指の感じ。すらっとした大人の指が……成長した朝子が、私の手を引いている。
今、私、恋人と手を繋いでいる。
自覚した瞬間、頬に熱が集まった。
「どうした」
「なにが?」
「顔が朱い」
「! こ、これは……っ」
指摘されたら、より熱くなった気がする。やめて欲しい。
「ちょっとだけ、照れくさくて」
「……初めてじゃないのに?」
「うるさいな」
こんなに気軽に手を繋ぐのは良くない。
心臓が、早鐘を打って落ち着かない。
寿命が縮まってしまう。
寂しさなんて、気にしている場合じゃない。
「……。嫌ならやめる」
「嫌じゃない!」
……そうわかっているのに。
「から、やめない」
可笑しい。
やめる選択肢が取れない。
恋が、判断力を奪っていく。
「そう」
また、彼女が小さく優しく笑う。
(ずるいなあ)
好きだなあという気持ちが増して、ドキドキが止まらない。むしろ加速して怖いくらい。
そのくせ、この手を離せないなんて。
まったく恋というのは、厄介だ。
END.




