アンティークドールはかく語りき(百合? お人形さんと持ち主と)
……アタシが生まれたのは、もうずっとずっと前だよ。
このお店に来たのは、つい最近だけどね。
悪くないよ。
こうして、ショーウィンドウに飾ってもらってさ。外を見ているの。
良い感じだよ。
辛気臭い店の中で『骨董』仲間と居眠りしながら過ごすより、ずーっとね。
店の前を、女の子たちが通る。時おり、アタシや周りの仲間を指差したりして。
にこにこ、にこにこ、笑ってるの。
いいね、って思うのよ。
いいね、いい笑顔だね。そのままでね。って。
アタシの元の持ち主はさ、それはもう可愛い女の子だった。
赤毛の巻き毛で、瞳は美しいエメラルド・グリーン。
何て可愛い子だろう! って、初対面でまず思ったのを、今でも昨日のように思い出せる。鮮やかに。手に触れられるくらい、はっきりと。
アタシたちはねぇ、ずーっといっしょだった。
あの娘はね、ずっとアタシと手を繋いで、アタシを抱っこして生きて来た。
朝の微睡みも、夕暮れの涙も。夜の内緒話も。ぜんぶ、アタシと。
あの娘の秘密は、何でも知ってるよ。言わないけどね。
にこにこ笑う顔が、何よりも可愛くてねぇ。倖せになってくれって、何度思ったことか!
このドレスが古びようと、綻びが出ようと、アタシのこの気持ちは擦り切れやしなかった。……今でも。叶うなら、どれだけ良いかと。
一つ年をとる度、あの子の笑顔は雲っていった。
そして、結婚する歳になったとき。あの娘はアタシを抱っこしながら言ったよ。
「ねえ、ジェニーは本当は『おとなりさん』だったりしない? ……いいよ。今夜にでも、元の姿に戻って。アタシを妖精の國へ連れて行って。そうしたら、ずっと一緒よ。私、あなたの為にどんなパイでも焼くわ。ヴェールだって作るわ」
お裁縫もお料理も、アンタ出来ないでしょうにってアタシは可哀想で、可愛くてね。
ああ、本当にアタシが隣人だったら、どれだけ良かったことだろう!
……あの子は、結婚が嫌で嫌でたまらなくて、だからだろうか。
婚約が決まってすぐ、風邪をこじらせてぽっくり逝っちゃった。
アタシは、彼女と一緒に眠る気だったんだけどねぇ。あの両親はいけないよ。
アタシをぽいっと売っ払ってしまった。
本当に、いけない人間さ。あのあと、どうなったろうね。あんまり良くなかったんじゃないかってちょっと思ったりもするよ。
……そんなわけだからね、お嬢ちゃん。
アタシは、こっから動く気は……あの子以外の誰かのものになる気は無いんだよ。
ここでずっと、この国の女の子たちの倖せを祈って余生を生きるって決め……って聞いてるのかい。
アンタ、ちょっと。
「すみません! この子、おいくらですか……!」
聞きなさいよ、ねえ。
「……やっと会えたね」
え?
「ジェニー」
アタシに向かってだけ囁かれた声は。
「迎えに来たよ」
あの日、初対面で聞いたあの子の声とよく似ていた。
『あなたは、ジェニーよ! アタシの可愛いお嫁さん!』
END.




