可愛い、と言う代わりに(百合。幼馴染同士。女子高生)
こちら(https://ncode.syosetu.com/n9047lt/106/)の二人
「星音」
私が名前を呼ぶと、彼女がノートから顔を上げる。
「なに?」
今日も私たちは学校から帰るといつも通り、私の部屋で宿題をしていた。宿題を終わらせたあとは、たいてい動画を一緒に見たり、本を読んだりしてインドアに過ごす。今日は珍しく、ゲームでもしようか、と話していた。恋人になる前から、ほとんど変わりのない日常。
「ピン、今日は付けてないのか」
「うん」
星音が、眉を寄せ困った顔になった。
「実は、壊れちゃって」
そう言いながら、頬にかかる髪を耳へかけ直している。
「この長さだと、耳にきちんとかかってくれなくて。家に予備も無いから困ってる」
「……それなら」
私は、自分の髪を留めていたピンを外して、彼女に差し出した。
「使いさしが嫌じゃないなら、今だけでも使うか?」
「え、いいの?」
「私は、それほど困らんから。そのまま付けて帰っても良い」
何となく惰性で付けているだけのものだ。
私からピンを受け取ると、星音は早速それで髪を留める。
「……ありがと、助かった」
「ん」
しかし、彼女の手はすぐにシャーペンへは戻らず、まだピン留めに触れていた。
「やっぱり嫌か?」
「ううん。そうじゃなくて、その」
伏し目になった彼女の耳が、じんわりと朱に染まる。
「朝子が使ってたものを身に着けるの、ちょっと照れ臭いなって思っただけ」
そう言いながらも、唇のほとりには小さな笑みが浮かんでいて。私の胸に、形容しがたい熱が生まれた。
きっと自分の耳も朱いのだろうと思うと、悔しいような気持ちも湧いて来る。
「お前な……」
「な、何」
こういう関係になるまでは、自分もそうだが彼女もまた、恋愛関連の事には淡白に見えた。
それなのに、時折こうして乙女らしい一面を覗かせてくる。
意外だと思うと同時に、その一面が、私の胸をギュッと掴むのだ。
それがまた、悔しいやら嬉しいやらで。
「! 朝子?」
「……」
私はそれを誤魔化すように、あるいは突き動かされるようにして、星音を抱き締めた。
「な、何でいつも急に抱き締めるの……」
「おおむね、お前の所為だ」
「どういうこと……」
もう、と困ったように呟いて、彼女は私を抱き締め返した。
END.




