無自覚ナイトのエスコート(同棲百合。おでかけ中)
「ああ、清風。そこ、段差がある。気を付けて」
そう言いながら、充希が私に手を差し出した。
あまりに自然なその所作に、私はため息を吐く。
別にここは、山の中というわけではない。ただの街中、住宅街の中だ。多少、他の道よりでこぼこしているというか、まばらに段差がある感じの道ではあるけれど。
このまちは坂のまちなので仕方ない。
「? 清風、手を」
「はい。ありがとうございます」
きょとんとしている彼女には、どうも私のため息の意図が伝わっていないらしい。
そりゃそうか。
とりあえず素直に、私は充希の手に自分の手を乗せた。
「まるで王子様ですねぇ」
「何が?」
段差を越えても、彼女は私の手を放さない。……嬉しい、と思っても顔には出さない。
「エスコートがあまりに自然なので」
「そうか?」
「ええ。人誑しですね」
冗談めかしてそう言えば、今度は充希がため息を吐いた。
「清風は、何もないところでもよくこけるじゃないか」
「それは……」
「こんな道だと、余計心配だから」
「……」
「? どうした?」
「いえ、何も」
別に。
そう別に。
清風だから特別、なんて言葉が欲しかったわけじゃない。
「何だか、手の力が強い気が……」
そういうわけでは決して無いから。
「気の所為です。段差がちょっと心配なだけ。さあ、今日の晩御飯は何にしましょうね」
「ほんとか……?」
「何がいいですー? やっぱり麻婆豆腐かな」
私は、何も気にしてない風で、繋いだ手をギュギュッと握り締めた。
END.




