悲しむのは贅沢じゃない(百合。真面目×自由人)
そのニュースを見た瞬間。私は早く帰ることを決意した。
帰りに美味しいコロッケを買って。ついでにシュークリームも買った。
「ただいまー」
家に帰ると予想通り、馨くんは、リビングのソファーに座ってぼんやりしていた。
「……あ。ミイさん」
おかえりなさいの声は、嬉しそうだけど力無く。私は、もう一度「ただいま」と言うと、手早く手洗いうがいを済ませ、シュークリームを冷蔵庫に、コロッケをとりあえずトースターの前に置いた。
そして。
「あのニュース、見た」
馨くんの前に立った。
馨くんは私を見上げながら、
「……解散のこと、ですね」
困ったように眉を寄せ、それでも笑ってそう言った。
彼女には、昔から応援しているアイドルグループがある。そのグループが、年内に解散するという。
「いやあ、吃驚しました。いつかあるかも知れないと、常に覚悟していたつもりだったんですけど。やっぱり、ショックでした」
「それはそうでしょ。好きなんだから」
「……でも、解散コンサートもありますしね。新曲も、アルバムも出るそうです。だから、凹んでばかりもいられません。贅沢なことですよ」
馨くんが、明るい声を出した。
そんな彼女を、黙って見つめる。
「皆さん、生きてるんです。芸能活動も続けて下さると言ってます。だから、全然、そんな、そうです。ショックを受けるようなことは、本当は」
「馨くん」
私は静かに彼女を呼んだ。
馨くんが、はっとした顔でこちらを見る。
「いいんだよ。悲しいときは悲しいで」
誰かの言葉なんか気にしないで。
馨くんは目を見開いてから、それから。
「……はい」
ミイさん、と私を呼んだ。なぁに、と応える。
「少しだけ」
「うん、いいよ」
彼女が、私の腰に腕を回しお腹に顔を埋めた。
微かに震える馨くんを、ぎゅっと抱き締める。
(馨くんは真面目だからなぁ)
きっと、色んな人の言葉を見て、考えちゃったんだね。悲しむことは贅沢だと、思っちゃったんだ。
けれど。
「私には、ちゃんと教えてよ。何を想ってるのか。感じてるのか」
「ありがとうございます」
きちんと受け止めるから。
そんな気持ちを込めて、私は彼女の頭にキスを落とした。
END.




