義妹が向けてくる好意がLikeかLoveかわからないからどう応えたらいいのかわからない件 8話
「待って」
後ろから呼び掛けられ、ふと足を止めた。
振り返ると、何か不機嫌そうな顔の尾村が立っていた。
「尾村?何か用でも」
「アンタじゃないからちょっと黙ってて」
「あ、ハイ……」
俺は尾村から、殺気のようなものを感じ、背筋に悪寒が走ったので、素直に黙ることにした。
俺に用事がないとなると、相手は……まぁ、夕嬉だよな。
「あなたに聞きたいことがあるのだけれど」
尾村は夕嬉にずい、とせめよる。
夕嬉も「な、何でしょう?」と気圧されてるようだ。
背丈は夕嬉の方が高いので、下から覗き込まれる形になっている。
尾村の目が鋭く夕嬉を睨み付ける。
かなり怖そうである。
「貴女、寺宮君に好かれているらしいじゃない」
尾村が言う。
この話しかけ方は、まるでドラマで見たことがあるような女子のいじめの始まりみたいだ……。
ま、まさか本当にいじめが始まろうとしているのか?
だとしたら、なんとしてでも止めなければ!
「寺宮君?あぁ、朝のセクハラ野郎ですか……」
それは、夕嬉からしたら正直な感想であったのだろう。
しかし、尾村はそのセクハラ野郎を好きなわけで。
「……寺宮君はね、普通はあんな積極的に女子に触れたりなんかしないわよ。そこから見ても、アンタが彼にとって特別なのは見て取れる」
あああ、なんか呼び方が変わってより一層イライラしてるように見える!
絶対怒ってるよコイツ!
もう夕嬉をぶん殴りそうな雰囲気だよ!
「だから……」
言いながら、尾村が腕を引いた。
体が軽く半身に反れて、勢いをつければそのまま殴れる体勢だ……って、やっぱり殴ろうとしてるじゃねーか!
気づいたときにはもう遅い。
尾村の腕が始動、俺は間に合わないと知りながら声を張り上げた。
「ダメだ尾村!暴力は……!」
何の解決にもならない、と言う前に、尾村の腕は夕嬉の右手をガッシリ掴んでいた。
「どうやったらそうなれるのか、私にも教えて!」
その時ほど、俺は自然にズッこけた事はなかった。
「え、ええ、何を教えたらいいのかわからないのですが……って、兄さん!?大丈夫ですか!?」
「あ、ああ大丈夫だ……」
「人の恥ずかしい告白を聞いておきながらその反応、最低ね」
「お前が紛らわしいことするからだろうが尾村っ!」
とにかく、暴力沙汰にならなくてよかった……。
新学期初日から暴力事件、しかもそれに自分が関わってるとか勘弁だ。
だが、尾村と夕嬉の距離は縮まったようだ。
「早速だけど、教えて欲しいことがあるのだけど!」
尾村がテンション高めで話しかけていく。
俺と話す時の尾村は何処へやら、まるで別人のようだ。
やっぱり恋が絡むとこうなるのかなぁ……?
しかし、夕嬉はあまり乗り気ではない様子。
「ご、ごめんなさい、今日は用事があるから、また後日ということで……」
「用事って?すぐ終わる?聞きたいことたくさんあるんだけど……。
あ、そうだ連絡先交換しましょ?今日から同じクラスだし!」
「尾村、とりあえず一旦落ち着け。夕嬉じゃなくても引かれるぞ、今のお前は」
どんだけいつもの尾村と違うんだ。
今まで尾村がこんなに喋ってるの見たことないぞ。
でも、これだけいつもと違う顔を見せているってことは、それだけ寺宮のことが好きってことか……。
寺宮、羨ましいな……。
べ、別に悔しくなんかないぞ!
「それではまた明日。久坂さん、色々教えて下さいね!」
「あ、ちょっと待って尾村さん!」
その場を去ろうとした尾村を夕嬉が呼び止めた。
何か伝えることでもあるのだろうか?
「何かしら?」
「あの……」
何か話しにくいことなのだろうか。
尾村の耳元に顔を寄せて夕嬉が何か言おうとしている。
「え?何?そんな重要なこと?」
尾村も困惑しているようだ。
夕嬉も若干恥ずかしそうに言った。
「………………」
夕嬉が何か言っているが、俺には聞こえない。
「なぁ、夕嬉?一体何を……」
「~~~~っっっ!?」
突然、尾村の顔が茹でタコのように赤くなった。
そして、ダッシュでその場から走りだした。
「お、おい尾村!?何処へ行くんだ?おーい!」
その言葉は届かず、尾村は止まらずに廊下を駆け抜けていった。
「な、なんだあいつ……?夕嬉、尾村に何を言ったんだ……?」
「あ、はい。廊下は人たくさんいるから、大声で告白とか恋愛絡みの話をするのはこれからやめた方がいいですよ、と……」
「あー……なるほどな……そりゃあ恥ずかしいわ……」
尾村が夕嬉に話しかけた所から見ていた奴なら、尾村は寺宮が好きってことも聞いてたことになるし。
あいつこれから苦労しそうだな……。
尾村……ドンマイ。
「さ、さて兄さん!」
「そうだな、俺たちも帰るか」
俺は尾村が走っていった廊下とは逆方向に歩きだした。
どっち側からでも昇降口には降りられるし、同じ方向に行ってまた出くわしたら、なんか気まずいし。
階段を降り始めると、夕嬉が急いでついてきた。
「あ、あの~……兄さん?」
「どうした?」
階段を降りながら夕嬉が話しかけてきた。
今日は夕嬉も俺も部活が休みなので、一緒に帰る約束をしていたのだ。
まさか、同じクラスになるとは思ってもいなかったけど……。
「き、今日は部活もないし、結構早めに学校終わったじゃないですか?」
「まぁ、そうだな」
「そ、それでですね……」
「うん」
「か、帰りに一緒に」
その時上から男子生徒数人が急いだ様子で降りてきた。
俺と夕嬉の横を、すごい勢いで駆け降りていく。
「ヤバい掃除で遅れる!」
「部活初日から遅れるとかマジヤバいって!」
「顧問の先生がすっげぇ怖いって先輩言ってたぞ……!」
よく階段踏み外さないな……。
様子的にもおそらく一年生だったし。
って、あっちを気にしてる場合じゃなかった。
「で、何だっけ?夕嬉?」
夕嬉の方に改めて顔を向ける。
俺の方が先に階段を降りていたので夕嬉の方が俺より高い場所にいて、俺が見上げる方向になる。
何故か夕嬉は顔を赤くしていて、胸にカバンを抱えながら不安そうにこちらを見つめている。
俺はその光景に見とれていた。
義妹ということも忘れて、思わず一目惚れしそうになった。
「あ、あの……」
夕嬉が弱々しく言う。
「お、おう……」
俺も何と言えばいいのかわからず、お互いに顔を赤くしながら向かい合ったまま固まっていた。
実際は数秒間だったのかもしれないが、体感的にはそうは感じなかった。
ただただ、ドクドク、ドクドクと胸がうるさい。
おそらくは、夕嬉も同じような状態なのだろう。
だが、彼女はそれに負けず、俺に言った。
「わ、私とデートしませんか!」




