義妹が向けてくる好意がLikeかLoveかわからないからどう応えたらいいのかわからない件 9話
「で、デート……!?」
あまりにも突然に、予想もつかないような事を言われて、驚きを隠せなかった。
「い、嫌、ですか……?」
顔を真っ赤にして夕嬉が言う。
よほどの勇気を出して言ってきたのだろう、目には涙が浮かんでいる。
「ぜ、全然、嫌じゃない、けど……」
緊張したのだろうか、うまく声が出なかった。
それでも俺の言いたかったことは、夕嬉に伝わったらしい。
今までの不安そうな表情が嘘のように、輝かんばかりの眩しい笑顔。
二年間一緒にいて、まだ見たことがないような、満面の笑みだった。
その笑顔から、目が離せなかった。
「じゃあ、兄さん!行きましょう!」
勢いよく階段を駆け降りながら、俺の手を取る夕嬉。
そのまま、三階から一階まで俺は引っ張られていった。
「ちょ、危ないって!おい!」
必死に足を踏み外さないように夕嬉についていく。
一階につくと、夕嬉が嬉々としてこちらを振り向く。
「さて兄さん!どこへ行きます?どこへでもお供しますよ!」
「その言い方はやめよう?」
それにしても、行きたい場所とは考えてなかったな。
というか、今さっき唐突にデート宣言されたわけで、本来はどこにも出かける用事なんて無かったからなぁ……。
「うーん、一緒に買い物にでも行くか?あ、でも今はそんなに手持ちのお金無いしな……。」
学校帰りにそのまま遊びに行く、というのは中々難易度が高いな。
一度家に帰ってお金を取ってくるという手もあるが……。
「兄さん兄さん」
「ん?」
夕嬉に呼ばれ振り向くと、夕嬉は自慢げな顔をしている。
「こんなこともあろうかと、いつも学校に持ってきてるカバンに、お金を仕込んでおいたのです。その額、一万円!」
「学校帰りに遊びに行ってどうやってその額使う気だよ」
いくらなんでも多すぎだろう。
せめて数千円にしとけ。
「え~?これくらい普通ですよ?友達も皆これくらいは持ってきてますって~」
「そ、そうなのか?俺が皆とズレてるのか」
「そうですよ。学校帰りデートとかに備えて!」
「お前さては謀ったな」
その言葉を聞いた瞬間、夕嬉は目を反らして口笛を吹き出した。
「わかりやすい誤魔化しはやめろ」
夕嬉が苦し紛れ、といった様子で、
「ほ、ほら、もうすぐ夏じゃないですか。夏に向けた服が並び始めるんで、見に行きたかったんですよ」
「あと数ヶ月もあるけどな。」
「でも夏くらいに暑いでしょ?最近は晴ればっかですし」
まぁ確かにその通りだ。
今年は中々雨が降らず、暑い日々が続いている。
桜が咲くのもめちゃくちゃ早かったし。
「まぁ、確かに今から夏に備えるのも悪くないかもな。」
「そうでしょうそうでしょう!さぁ、一緒に買いに行きましょう!水着!」
まだ4月だっての。
確かに涼しげな服が並び始めるかもしれないだろう。
だが水着はまだ早すぎると思うんだが。
「でも、今日お昼食べてないからお腹空きました。買い物ついでに食べに行きましょうよ、兄さん」
「ん……そうだな……」
俺も確かにお腹が空いてきている。
夕嬉は朝ドタバタしていたから余計だろう。
「わかった。水着は見ないけど買い物行こうか。それがデートって呼べるのかはわからないけど」
「大丈夫ですよ!兄さんと一緒なら、私にとって何をしててもデートにカウントされますから!」
「家にいるときでさえデートになるのか?」
呆れながらも、昇降口に向かう。
「あ、待ってくださいよ!」
と、夕嬉も追い付いてきて、すかさず、といった感じで当然のように腕に抱きついてきた。
「……夕嬉、学校でそれをやるのはやめてくれ。恥ずかしい」
「え?じゃあ学校じゃなければやっていいんですね?」
「……いや、出来ればやめて欲しいかな、どこであっても。」
恥ずかしいし、誰にどこで見られるかもわかったもんじゃない。
男として抱きつかれるのはとてもドキドキするけども。
夕嬉も、しょうがない、という感じで離れてくれた。
二人で昇降口まで歩いてきたが、そこでふと気づいた。
ポケットの中の携帯が震えたのだ。
それを取り出し、通知をチェックする。
「ん?……ああ、了解、っと……」
「兄さん?どうしたんですか?」
「親父からメール」
内容は「洗剤やシャンプーが切れてたから買って来てくれ。お前今日学校終わるの早いし、いいだろ?」とのこと。
夕嬉にそれを伝えると、少し考えて、
「それじゃ、ついでに買ってきましょう」
と言った。
だがその場合、別の問題が発生する。
「お金足りないだろ、絶対」
「あ……」
流石に一万円で服見て昼食を食べて買い物を済ませる、というのは難しいだろう。
外へ出ると、強い日射しが目に飛び込んでくる。
今日も天気がいい日だが、帰るにせよ、そのまま買い物に行くにしても、徒歩通学である俺たちには暑すぎるくらいだ。
「どうするか……やっぱり、一回家に戻るか」
「そうするしかなさそうですね……まぁ、この後の楽しい時間を考えれば、待ってる時間も楽しみの一つってものですよ!」
夕嬉が嬉しそうに言う。
声からしても、本当に楽しみなんだろう。
ならば、それに応えてやるのも兄としての務め……なんだろう。多分。
「さぁ、早く帰って支度しちゃいましょう!」
「そうだな」
雲一つないほどの晴天の下に、俺たちは歩きだした。
夕嬉は俺の右側をついてくる。
これだけで寺宮とかにはすごく怒られそうだな……。
グラウンドからは、運動部の掛け声が止めどなく聞こえてくる。
まさに、ああ、夏だなぁ。って感じがする。
そんなことを思って歩いていると、学校の正門をいつの間にか越えていた。
俺たちの家は橋を渡りはするが、学校の正門からひたすらまっすぐ進んでいれば着く。
今日はまだ昼前だし、道が混んでなければいいんだがな……。
交通事故とか怖いし。
「兄さん?聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
「? ああ、構わないけど……」
俺が言葉を返す前に、夕嬉は俺の右腕に抱き付こうとする。
「ちょっ!?」
「これは嫌なんですよね?」
「え?う、うーん……?」
そういや、今まで恥ずかしいって思ってたから拒否してきたけど、恥ずかしさを気にしなければ逆に嬉しいというか……。
……いや、圧倒的に恥ずかしさが勝つな。
「……嫌っていうか、やっぱり恥ずかしいよ。よくお前も誰に見られてるかわからないのに、そんなグイグイこれるな」
「これが私なりの愛情表現ですから!」
「そ、そうか……」
じゃあもし、夕嬉が他の男性を好きになったら……
「考えたくないな」
「え?何のことです?」
どうやら口に出してしまっていたらしい。
そんな恥ずかしいことを想像してたなんて言えるか!
「な、なんでもないって……」
ありふれた言い方で誤魔化す。
人間、とっさのことになるとやはりテンプレを踏んでしまうらしい……。
夕嬉も怪しんでいるようだが……。
「まぁ、いいです。抱きつくのがダメなら……」
そう言うと、今度は俺の手を握ってきた。
柔らかい手に思わずドキッとする。
「これならいいですよね?」
笑顔で聞いてくる夕嬉。
「ああ……うん……そう、だな……」
と、途切れ途切れの歯切れの悪い言葉で返すしかなかった。
そこに、夕嬉の無邪気な追撃。
「よかったぁ!じゃあ、帰るまではずっと手繋いだままですからね!」
「……えっ?」
どうか、誰か(特に寺宮)に見られませんように……。
俺はささやかな祈りを捧げながら、夕嬉と一緒に歩くしかなかった。




