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義妹が向けてくる好意がLikeかLoveかわからないからどう応えたらいいのかわからない件  6話 

 夕嬉がとても嬉しそうに笑っている。


 「やりましたよ兄さん!まさか本当に同じクラスになれるなんて、感激です!」


 「マジかぁ……」

 

 夕嬉はよほど嬉しかったのか、笑顔で話しかけてくる。

 占いってバカにできないな。

 これからはもっと参考にするようにしよう……。

 じゃなくて!


 「なんで兄妹で同じクラスになってんだよ、おかしくないか?」


 「でも学校側から決められたことでしょ?別に絶対駄目ってことではないでしょうし」


 「そりゃまぁそうかもしれないけど……」


 夕嬉の表情が曇る。

 

 「もしかして、私と一緒のクラスは嫌ですか……?」

 

 「……いや、そんなことはないけど……」


 なんと言ったらいいのかわからない、恥ずかしさのような感情が心の中一杯になって、何も言えなくなってしまった。

 夕嬉は悲しげな表情を崩さない。

 何か言わなきゃいけないと、口を開きかける。


 「ゆ、夕嬉、俺はお前と一緒のクラスになれて、正直嬉し……うわっ!?」


 「久坂さん!久坂夕嬉さんですよね!?ま、まさか貴女と同じクラスになれるなんて!」


 言葉を言い終わる前に、後ろから俺をすごい勢いで押し退け誰かが夕嬉に声をかけた。

 いや、声をかけるとかそういうレベルじゃない。

 まるでアイドルを見つけたかのように感激し、サッと近寄って手を握る。

 相手が相手なら通報されてもいいんじゃないか?


 「……痛いじゃないか寺宮」


 俺を押し退けて大事な言葉を言い終わる前に夕嬉に近づいた不審者は、もちろん寺宮だ。

 俺は怒りをにじませた声を寺宮に向けるが、寺宮はそれどころじゃないらしい。


 「馬っ鹿野郎!これに慌てずにいられるかっ!夢が、俺の夢が遂に現実に!」


 どうやら今の寺宮には何を言ってもダメなようだ。

 俺の言葉も全く届いてはいないようだし。

 だから残念なんだよこの男は……。

 まぁ、寺宮が夕嬉がらみの話題になると暴走するのはいつもの事だし、慣れたようなものだ。

 はぁ、とため息一つ、俺が立ち上がろうとしたとき。


 「大丈夫ですか!?兄さん!」


 夕嬉が俺のところまで駆け寄ってきた。

 寺宮の手を振り払って。


 「え、あ、久坂、さん……?」


 寺宮は戸惑った様子であたふたしている。

 そこに夕嬉が一言。


 「誰か知らないけど、兄さんに怪我させるような人、私は嫌いだから、私と兄さんに近づかないで!」


 静かに、だが確かに怒気が含まれた言葉。

 寺宮の心は既にノックアウト寸前だったが、夕嬉にあからさまに嫌われたことで、完全に心が駄目になったらしい。

 あと、なんで俺に寺宮が近づいちゃ駄目なんだよ……。

 一方寺宮は、先ほどまでの騒がしさは何処へやら、うつむいて小さな声で


 「ゴメンナサイ……」


 と一言、深々と頭を下げた。

 その姿はいつもクラスの中心にある寺宮が見せるような姿ではなかった。

 謝らなければいけない時に謝れる寺宮の素直さは認めるが、夕嬉はそれでは満足しないようで。


 「はぁ?兄さんに怪我させておいて、その程度で済むと思ってるの?」


 「いや、夕嬉。俺怪我してないぞ?」

 

 別にどこかぶつけたとかもないし、怪我なんてもっての他なんだが?

 だが夕嬉は俺の言葉が聞こえてはいないようで。


 「どこのクラスの人か知らないけど、いきなり人の手を握るのはセクハラだとは思わないの?」


 「いえ……そんなつもりは……」


 寺宮がすごく弱々しい声で言う。

 流石に可哀想なので、俺は夕嬉を止めようと話しかける。


 「夕嬉、もうそろそろやめてやれって。寺宮も反省してるみたいだし」


 夕嬉の肩を叩いて、話を聞かせる。

 寺宮は「久坂……!」と救いを見つけたような目で俺を見ていた。

 ……いや、なんか気持ち悪いからやめろその視線……。


 「寺宮?兄さん、この人と知り合いなんですか?」


 そういえば、夕嬉には寺宮の事はまだ、『仲のいい友達がいる』程度にしか言っていなかった。

 どうやら夕嬉は、俺が前に言ったその『仲のいい友達』が、寺宮のことだと気づいたらしい。

 夕嬉が俺と寺宮を交互に見る。

 そして意外そうな顔で一言。


 「いや……友達には見えないかなぁ」


 その言葉を聞いた瞬間、寺宮は目にうっすら涙を浮かべながら


 「俺のこと、紹介してくれ……」


 と項垂れながら言った。


 「……まぁ、そのうち……」


 俺は、そんな曖昧な返事をすることしか出来なかった。

 ちょうどそのタイミングでチャイムが鳴り響いた。

 教室のドアを開き、先生が入ってきて、


 「あ、新しいクラスで皆さん興奮しているのはわかりましたので、と、とりあえず席に着いてください!」


 とクラス中に呼び掛けた。

 

 「女の先生か。優しそうな先生だな」


 立ち直った寺宮が俺に言う。

 俺も初めて見る先生だ。

 メガネかけて髪も短く、大人としては小柄な先生だ、というのが初見の印象。

 問題はこの先生がどんな先生かよくわかっていないところだ。

 印象と実態は違う可能性があるからな。

 自分の席に座りながら、誰かがこの先生のことを知っていないものか考えた。

 寺宮と俺は言わずもがな初見、尾村も俺たちと同じクラスだったから多分知らないだろう。

 他のクラスの人たちに聞くっていうのもあるが、まぁ無理だ。

 今日初めて見た奴に声かけて友達になれるのは寺宮みたいな奴だけだし。

 あとで寺宮の力も借りよう……。

 あ、そういえば夕嬉には聞いてなかったな。

 

 「はい、全員揃いましたね。それでは今日は私が号令を」


 先生が元気のいい声で「きりーつ!礼!」と号令をかけた。

 いや、なんか抜かしてないか……?

 『おねがいしまーす』とクラス全員の声が響く。

 それと同時に頭を下げ、全員がどんどん席に着いていく。

 全員が座ったのを見て、先生が話し出した。


 「えー、この地点でわかってると思うけど、このクラスの担任となりました、鈴野(すずの) 雅(みやび)です。女子テニス部の顧問もしてます、よろしくお願いします」


 先生の自己紹介が終わると、パチパチパチ、と拍手が起こった。

 女子テニス部の顧問の先生ということは、夕嬉は絶対に知ってる先生なわけだ。

 あとで先生のことを聞いてみよう。


 そう思ってこっそり後ろの席の夕嬉の様子を見てみると、夕嬉も呆然とその先生を見ていた。

 やはり、この先生を知っていたらしい。

 先生は話を続ける。


 「えー、それでは皆さんも自己紹介をお願いします。教えて欲しいことは……」


 先生はチョークを黒板に走らせる。

 スラスラときれいな形をした文字が並んでいく。

 しばらくすると、自己紹介のルール4つが並んだ。

 

 「それでは、自己紹介のルールを説明します。

まず名前、部活、好きなことを言ってください。最後に何か自己アピールをしてください。」


 自己アピールだと……?

 何を言えばいいのか見当もつかず、頭を抱えた。

 他の生徒も


 「えー!?」


 「何も言えるようなことないって!」


 「難しすぎない?自己紹介……」


 と、愚痴が止まらない。

 俺自身も、読書が好き、とかその程度のことしか思い付かない。

 俺含め、ほぼ全員が頭を悩ませているなか、先生からの一言。


 「それじゃ、順番はくじで決めます。悩みながらでもいいから何か言ってくださいね」


 そう言うと、先生はお手製のくじを取り出し、1つの紙片を取った。

 準備いいなぁ、あの先生……。

 折り畳まれたその紙片を開き、「それでは、出席番号1番!」と中に書かれていたであろう文字を読む。

 教室最前列、俺から見て一番左の列の男が「えー、結局俺から?」と言いながらも、渋々といった様子で立ち上がった。


 「えー、秋田(あきた) 勇一(ゆういち)です。

部活は野球部です。好きなことっていうと……うーん、やっぱり運動全般ですかね。

えー……、皆さんと、仲良くなりたいです!一年間、よろしくお願いします!」


 彼が頭を下げ、席に座ると同時に拍手が起こる。

 ……ふむ、こんな感じで言えればいいのか。

 

 「はい、ありがとうございました。えーと次の人は、出席番号22番」


 次の人に順番が移ったみたいだな。

 早く自分もどんなことを言えばいいのか考えなければ……。


 「あ、はい。えっと、寺宮伸介です。」


 お前かよ……。


 「部活は、演劇部に入ってます。好きなことは……げ、ゲームですかね。俺あんまり上手くないんですけど。」


 

 自己紹介中、寺宮の顔が一瞬曇った。

 多分、「好きなことは久坂さんを見守ること」とか言いかけたんだろう。

 まぁ、全部俺の予想ではあるが。

 寺宮とはそういう男なのだ。


 「これから一年間、よろしくお願いします。」


 寺宮がスッと頭を下げ、席に着く。

 先生が


 「はい、ありがとうございました。次、三人目は……」


 次のくじを引こうとしているとき、ふと寺宮の方を見てみると、寺宮が親指を立てて俺に見せてきた。

 どうやら、「がんばれ」と言う意味らしい。

 俺の心配までしてくれるとは……やっぱりいい奴だな、あいつ。

 俺も静かに親指を立て、寺宮に向ける。

 寺宮が安堵したような表情をしたのが見えた。

 そこに、先生が次の人の名前を呼んだ。


 「十三番の人!お願いします」


 「あ、はい!」


 夕嬉が立ち上がり、自己紹介をはじめる。


 「久坂 夕嬉です。

 部活は、女子テニス部に入ってます。好きなことは……料理、ですかね。

 私、勉強が全然出来ないんで、誰か教えていただけるとありがたいです。よろしくお願いします。」


 周りから拍手が起こり、夕嬉が席に着く。

 真後ろの席だから振り向いて見ればよかったのだが、なんだか照れ臭いような感じがして、結局後ろを向くことが出来なかった。


 寺宮の方を見てみると、やはり夕嬉のせいだろうか、机に突っ伏している。

 多分、心の中で「久坂さん可愛い可愛い可愛すぎる……」とか考えてるんだろうなぁ……。

 俺の想像だけど。

 こうしてそれぞれの自己紹介が進んでいったのだが、このとき俺は今日は思ったように事が進まない、という占いの結果を完全に忘れていたのであった。

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