義妹が向けてくる好意がLikeかLoveかわからないからどう応えたらいいのかわからない件 4話
朝6時。
「慎く~ん?もう朝ですよ~!」
下から義母さんの声がする。
元々眠りも浅いので、いつもならもう少し布団に籠っているのだが、今日はスッと目が覚めた。
軽く体を伸ばしたり捻ったりして体をほぐし、起き上がって下に向かう。
「おはよう」
「おはよう慎。なんか今日は珍しく目覚めがいいんだな。」
「全くね。いつもこれならいいのに。」
下には義母さんと親父がいた。
親父と何気なく会話を交わし、棚から自分のコップを取り出し、台所の冷蔵庫からお茶を出して一杯飲む。
これが目覚めにいい。
頭がキーンとして、感覚がハッキリする。
……たまにお腹が痛くなったりするけど。
「慎くん、悪いけど夕嬉起こしてきてくれないかしら?」
と、義母さんが言った。
そういや珍しいな、夕嬉が俺より早く起きてないなんて。
部活の朝練があるから、いつも早く起きているのだが。
「ん、わかった。着替えついでに行ってくる」
「助かるわ。降りてくるまでには朝ごはん出来るからね」
義母さんの声を背で受け、俺は二階への階段を登る。
夕嬉の部屋のドアを、軽く二回叩いて呼び掛ける。
「おーい、夕嬉?朝練あるんじゃないのか?起きろよ~?」
部屋の中から返事はない。
もう一度ドアを叩くが、やはり返事はない。
「……しょうがないな……」
こうすれば一番早いとはわかっていたが、やはり多少の抵抗があった。
だが、起きないのなら仕方ない。
自分に言い聞かせて、義妹の部屋に入る。
っていうか、昨日ムカデ騒ぎで一度入ってるじゃないか……。
あのときはムカデでそれどころじゃなかったが、改めて部屋を見ると、小物がキッチリ整理されていて、本棚の本もきれいに揃えて並べられている。
物が多すぎず、清潔感があった。
こういうところはしっかりしてるんだがなぁ……。
おっと、今はそんなことを考えている場合ではなかった。
「うぅ~ん……」
夕嬉本人はドアからすぐ左に置かれているベッドの上で未だに夢の中である。
布団を被って寝ていたが、寝返りなどで地味に布団がズレたのだろう、仰向けで寝ている夕嬉の上半身に布団がかかっておらず、胸の部分の膨らみが目に留まる。
しかも寝ながら笑っている。
いや、笑うというか、ニヤついている。
「えへへ……」
一体何の夢を見ているやら。
夢でニヤつくって相当変な夢を見ているのだろう……。
と、そこで義母さんから前に聞いたことを思い出した。
親父と義母さんが結婚する前に、義母さんが夕嬉を起こしていたという方法。
「……試してみるか」
えっと確か……
夕嬉の耳に届くくらいの声で義母さんの声真似で言ってみる。
「夕嬉?今日の晩ご飯何がいい?」
夕嬉にこの問いが届いているのかはわからないが、「う~ん……」とまだ眠っていたいご様子。
仕方ない、布団剥ぐか……?
そんな考えが頭をよぎった瞬間。
「トンカツ!」
と言いながら夕嬉がガバッとすごい勢いで起き上がった。
まさか本当にこんな方法で起きるとは……。
見ていたこっちが驚きを隠せない。
何も言えずただビックリして夕嬉を見つめていた。
「……兄さん?なんで私の部屋に?」
「お前が起きてこないから起こしにきたんだよ……朝練あるんじゃないのか?」
俺がそう聞くと、夕嬉はスマホの画面を立ち上げ時間をチェックする。
自分が起きれなかったことを自覚したらしく、「はぁ……」とため息をついた。
「仕方ない、今日は休みましょうか、朝練」
と言い出した。
「おいおい、今からでも間に合うだろ」
と聞くと、夕嬉は真面目な顔で、
「気持ちの問題です!」
と言い切った。
……いや、それで休む必要はあるのか……?
まぁいいや。夕嬉の部活の事情にあまり首を突っ込みたくないし、また体調を崩されても困る。
「わかったわかった。それでもいいから、さっさと降りてこいよ」
そう言って俺は夕嬉の部屋から出た。
ちょうど下からいいにおいがしてきた。
朝ご飯が完成したらしい。
俺は急いで自分の部屋で着替えを済ませ学校の授業の用意などが入ったリュックを持って、階段を降りてリビングに入った。
今日の朝ご飯はシンプルに、ご飯、味噌汁、目玉焼き。
決して多くはないが、食べきれるくらいの絶妙な量が盛りつけられていた。
俺は椅子に座り、「いただきます」と言って朝ご飯を食べ始めた。
しばらくすると、夕嬉も制服に着替えて降りてきた。
それと入れ違うように親父が「行ってきます」と家を出て、義母さんの「いってらっしゃい」の声が親父の背中を押す。
窓を見ると、親父が笑顔で手を振って仕事に向かった。
時計を見るともうすぐ七時というところであり、丁度朝食を食べ終えた。
「さて、俺ももう行こうかな、学校」
そう言って席を立つと、夕嬉は慌てた様子で、
「え!?ま、待ってください兄さん!母さん、ご馳走さまでした!」
と急いで自分の部屋に向かった。
鞄を忘れたのだろう。
俺は夕嬉を待つついでに自分にも忘れ物がないかチェックしていた。
そういえば今日は新クラス発表の日だったか……。
今年一年を共にするクラスメイト、仲の良い友達がいてくれればありがたいのだが……。
そんなことを考えていると、上から夕嬉が転びそうな勢いで階段をかけ降りてきた。
「お、お待たせしました……」
「そんなに急がなくてもいいのに……」
すると夕嬉がまた真剣な表情になって言った。
「急がないと朝練に遅れてしまいます!」
「自分で休むって言っただろ!」
まだ若干寝ぼけているような夕嬉に、もう一度顔を洗いに行かせ、俺たち二人は家を出たのだった。
◆
「えへへ……忘れてました……」
「自分で言い出しといてなんなんだよ……」
照れ笑いを浮かべながら俺の隣を歩く夕嬉。
まだ朝早いというのに、車がよく通る。
学校までは大体十五分で着くのだが、昨日夕陽を見た橋とは別の、一番川上の橋を渡る。
この橋は一番最近作られた橋で、車を含めた交通の要で、車がたくさん橋を通っている脇の歩道を歩いていた。
住宅街が多い川の東側に学校があるのだが、俺たちの家は川の西側なのだ。
しかし、家も学校も橋からはさほど離れていないので、俺たちは徒歩で通学している。
「兄さん兄さん。今日ってどんなことするんでしたっけ?」
「学校か?えーと、確か、HRで説明を聞いたあとに新クラスに移動、自己紹介って感じだっけ」
うろ覚えではあるが、あながち間違ってはない気がする。
「うふふ、もしかしたら、兄さんと同じクラスになれるかも」
「いやぁ、それはないだろ……」
勘だが、そういうところは学校側も考えてくれていると思うんだが。
実際のところはよくわからないが……。
「で?お前はさっきからなんでずっとスマホ見てるんだ?」
夕嬉は自分のスマホの画面を俺に見せてきた。
画面に映っていたのは、いわゆるその日の星座占いのサイトだった。
「今日は私の星座が運勢一位なんです!」
「でもこういうのって当たらないだろ?所詮気休めだよ」
「え~?これ今女子の間で流行ってるんですよ?結構当たるって。う~んと、今日は自分の小さな願いが叶う日。ラッキーアイテムは……赤色のシャーペン?やった、持ってる!」
これが女子の盛り上がり方か……。
夕嬉一人でも結構騒がしいが、これが複数人集まると……。
そんなことを考えていると、ふと気になったので夕嬉に聞いてみた。
「なぁ、夕嬉。俺の運勢ってどうなってる?」
「え?兄さんの?え~と……」
少しドキドキしながら答えを待つ。
程なくして夕嬉が答えた。
「あ、ありました。最下位ですね。今日は思ったことが全て裏目に出る日。余計なことは考えず自然体で過ごしましょう!……とのことです。」
「……」
……今日は新クラス発表の日だ。
「めっちゃ嫌な予感しかしねぇ……!」
そうこうしてる間に学校に着いた。
果たして、俺は平穏な一年を掴み取ることが出来るのだろうか……。




