義妹が向けてくる好意がLikeかLoveかわからないからどう応えたらいいのかわからない件 3話
「兄さん?」
夕嬉が心配そうな顔をする。
夕嬉に隠し事などしたくはないし、夕嬉と義母さんがこの家に来て家族になるまで、自分があんな生活をしていたのも夕嬉は知っている。
それでも何故だろうか。
今の夢がどんなものだったのか。
いや、今の夢で自分が何を思っていたのかを知られたくなかったのだろう。
「……何でもないって。さっさと食べよう。」
手に取った小皿を持って、キッチンから出る。
「ちょっ、兄さん!?何でも聞けって言ったじゃないですか!」
「……昔の夢さ。夕嬉や義母さんがこの家に来る前。」
そういうと、夕嬉は何も言わなくなった。
自分が来る前の話だと、その話題について触れられないのは当然だ。
「はぁ……」とため息をつき、夕嬉がおかずを持ってキッチンからリビングへと戻ってくる。
俺たちは二人ともテーブルに料理を並べ、椅子に座った。
「「いただきます」」
夕嬉が作ったのは、鶏肉の照り焼きだった。
それに豚肉のしょうが焼き、サラダ、味噌汁、ご飯。
下準備を前もってしておいたのだろうか?あの短時間でこれだけの量を作れるとは……。
時計を見ても、自分は30分も寝ていなかったはずなのだが……。
夕嬉はというと、いつもよりすごい勢いで料理を平らげていく。
……腹壊すぞ……?
言いかけたが、野暮だとも思い、俺も夕嬉が作ってくれた料理を口に運んでいると、唐突に夕嬉から声をかけられた。
「兄さん」
「な、なんだよ」
「さっきの件はもういいです。でも、兄さん、さっきのこと以外で私に隠してることとかありませんよね?」
真剣な顔でこんなことを聞かれても、他に夕嬉に隠していることなんてないんだが……。
「えーと、例えば?」
こんなことを聞くということは、何か心当たりがあるのだろうか。
さっきの件はもういいって言ってたし……。
全く予想がつかない。
夕嬉は未だに真剣な顔で言った。
「例えば……彼女が出来たとか!」
「何言ってるのお前」
あまりにも予想の斜め上の質問だった。
ちなみにそんなことはない。
というか、一年間何もなかったのに何故いきなりそんなことを思ったのか。
「……何か根拠があってそう思ったのか?」
「当然です!」
夕嬉は何か怒っているような寂しいような、そんな顔をしている。
いや、根拠も何も、そんな事実自体がないんだが……?
夕嬉は俺をビシッと指差した
「兄さんから……女の人みたいな匂いがします!」
「それさっきまでお前が俺に抱きついてたからじゃないかな?」
めっちゃ力入れて俺の腕をホールドしてたよね?
すっごい痛かったんですけどね!
「じ、じゃあ彼女が出来たとかは……?」
夕嬉が拗ねたような感じで聞いてきた。
「あるわけないだろ。むしろ今日の帰りを誰かに見られていたら、明日にまたお前とそういう関係かって言われそうなんだから……」
明日学校で男子からの視線に注意することにしよう。
いきなり校舎裏とかに連れていかれかねない。
俺が明日のそんな心配をしている一方で、夕嬉は。
「よかったあ……!」
と、笑顔を浮かべ、どことなくホッとしているように見えた。
……いや、なんでホッとしてるの?
「ご馳走さまでした!兄さん洗い物お願いしますね!私、先にお風呂貰っちゃうので!」
そう言い、夕嬉は跳び跳ねそうな勢いで二階に向かった。
自分の部屋で着替えを持ってくるのだろう。
「はぁ……風呂先に取られたか。仕方ない、大人しく皿洗って待ってようか……」
そのためには早く食事を済まさねばならない。
俺は改めて鶏肉に箸を伸ばそうとして……
鶏肉も豚肉も、全て無くなっていることに気づいた。
いつの間にか全部夕嬉が食べていたようだ。
「お、俺の肉ーーーーっっ!!」
俺の叫びと同時に、お腹がきゅるるる~と情けない音を出したのは同時だった。
◆
結局その日、まだ宿題も出ていなかったため、風呂に入った後は自分の部屋でゴロゴロしていた。
春休みが終わる少し前に買ってきた漫画を読んでいると、携帯の着信音が鳴った。
どうやらメッセージアプリに誰からかメッセージが届いたようだ。
「誰だ?もう10時だぞ……」
携帯のロックを外し、届いたメッセージを開く。
内容は、
「明日発表の新クラスでも、また一緒だったらいいな!」
とのこと。
送ってきた相手は、今のクラスの友人、寺宮だった。
確かに、新クラスになってボッチは、出来れば回避したい事案だ。
一度クラスに馴染めないと、それが一年続くからな……。
特に俺たちは今年高校二年生だ、修学旅行の時でもボッチだと思うと……。
「ううっ、寒気がする」
嫌な想像を頭から追い出し、寺宮に「そうだな。」とメッセージを返しておく。
明日の新クラス発表にドキドキしつつ、もう今日は寝ようと布団を整え始めたのだが。
「ぎゃあああああああああ!!」
といきなり家中どころか近所一帯に聞こえそうな悲鳴が聞こえてきた。
「な、なんだぁ!?」
俺の部屋は家の二階で、夕嬉の部屋は隣の部屋だ。
他にも親父の部屋、義母さんの部屋も全て二階にある。
親父や義母さんはまだ帰ってきていないようで、下からは全く声が聞こえてこない。
となると……夕嬉か!
俺は自分の部屋を飛び出し、隣の部屋のドアを叩く。
「夕嬉?どうした、何があった!?」
すると、引き戸が凄い勢いで開き、中から夕嬉が飛び出してきて、いきなり抱き付いてきた。
「兄さん~!」
と、涙ぐみながら俺の腰に手を回して、ガッチリ抱きついている。
風呂上がりなのもあって、いい香りがするし、髪もまだ乾ききらず、しっとりと濡れている。
ゆったりとしたパジャマを着て、体のラインが見えにくいようになっているが、手を回して抱きつかれているので、バッチリ胸が当たっている!
夕嬉は顔を赤くして涙を浮かべているが、多分こっちも顔が真っ赤だろう。
「ゆ、夕嬉!どうしたんだ?なにがあった?」
と、夕嬉に問いかける。
夕嬉はゆっくりとこちらに顔を向ける。
そしてゆっくり口を開いた。
「へ、部屋に……」
「お前の部屋に?」
「て、天井にぃ……」
「天井に?」
「ムカデがっ!」
「ムカデ!?いやなんでムカデ……うわ、本当にいやがる!」
夕嬉の部屋に入り天井を見上げると、本当にムカデがへばりついていた。
しかも、結構大きい奴だ。
そりゃあこんなのをいきなり見たら驚くだろう。
夕嬉は腰を抜かしてすっかり怯えて、ずっと震えている。
俺は初めてこんな夕嬉を見た。
「夕嬉、お前ああゆうの駄目なのか?」
と聞くと、やはり震えながらこく、こくと頷いた。
意外な事実を聞いて驚きを隠せないが、今はそんな場合ではない。
「と、とりあえずあれをなんとかするぞ、ええっと確か、凍結スプレーだっけ?あれがあったはずだから、下に取りに行かないと」
下に降りる階段に向かおうとすると、夕嬉がさらに力を入れて俺の動きを止めた。
夕嬉の顔を見ると、先程よりも赤くなっていた。
もう真っ赤である。
「お、おい、夕嬉?下に行かないと」
「ダメ」
「え?」
「怖いから、一緒にいてください……」
夕嬉は一向に俺を離そうとはしない。
でもムカデをなんとかしたいとなるとやはり下に行かねばならない訳で。
「いや、夕嬉?離してくれないとムカデ追い払えないんだが?」
「下に行かずに、ここでなんとかして下さい!」
「えぇ~……?」
夕嬉はまだ涙を目に浮かべ、俺を見つめていた。
で、でもやはりムカデだぞ?毒虫だぞ?直に触るのはやっぱり……
「お願い……」
……やっぱりこの表情は反則だ。
この表情で訴えられたら、答えない訳にはいかない。
「……わかった、わかったからそろそろ離してくれ。」
「兄さん……?」
俺は夕嬉の部屋に再び入り、そこにあったティッシュを何枚か重ねる。
一方のムカデは天井から壁に移動しようとしていた。
俺の背が届く範囲に入った瞬間、ティッシュでムカデを掴み、そのまま窓を開ける。
「出てけー!」
と言いながら窓からムカデを放り投げ、ヤツを夜の闇の中に追放してやった。
出来れば二度と来ないでくれ……。
「に、兄さん、ムカデは……?」
と後ろから夕嬉の不安げで小さな声が聞こえた。
俺はムカデを掴んだティッシュをゴミ箱に捨てながら言った。
「大丈夫だ、窓からぶん投げたから。これで寝れるか?」
夕嬉の顔を見ると、さっきまでの不安な表情が嘘のように、輝かんばかりの笑顔を浮かべた。
「兄さん……!ありがとうございます!」
「いやいや、これくらいいいって。じゃ、俺もう寝るから。」
「はい!本当にありがとうございました兄さん!よい夢を!」
「うん、お前もな。お休み」
「お休みなさい!」
俺が部屋から出てドアを閉める直前にチラッと見た夕嬉の顔は、夕陽を見たときのあの笑顔と変わっていなくて。
自分の部屋のドアの前で、つい言わずにはいられなかった。
「だから、反則だって。あの笑顔はさ……」
「何が反則なんだー?」
「何って、あの笑顔に決まって……ふおっ!?」
自分の隣から声が聞こえて、思わず変な反応をしてしまった。
隣にいたのは父、久坂 陽太郎。
いつも仕事で帰ってくるのが遅いのに、何故?
「ふおっ、てなんだよ、ふおっ、て……父さん悲しいぞ」
「……驚いただけだよ。それより今日は早いな、親父。」
「ああ、窓開けて車運転してたらいきなり夕嬉ちゃんっぽい絶叫というか、悲鳴が聞こえてきたもんだから、すっごく急いで帰ってきたんだよ……」
やっぱり聞こえていたらしい。
明日の朝、近所の人に顔を合わせづらいなぁ……。
親父は親父で心配だったようだが、事のあらましを説明すると、落ち着いて納得してくれた。
「ふむ、なるほど……さすがだな、慎。兄貴らしくなってきたんじゃないか?」
「だったらいいんだけどね。俺もう寝るから。」
親父は階段に向かいながら、「そうか、お休み。」と言い、下へと降りていった。
俺は自分の部屋に入ると、読んでいた本を片付け、明日の準備を終え、電気を消した。
だが、ここで問題が発生した。
「眠れん……!」
さっきの夕嬉の涙を浮かべた顔、真っ赤になりながらも俺を呼び止めた時の顔、最後の笑顔が頭から離れず……
というか、最初に抱きつかれた時、夕嬉が俺の腰に手を回して抱きついていて、その状態で何度か見上げられたことがあったが、これ、他人から見られていたら結構ヤバい状況だったのでは……?
親父が帰ってなくて良かった……。
って、何を考えてるんだ!俺は寝る!寝るぞ!
その後、俺は寝れた気がしない。
いや、厳密には少しだけ寝れたようだが。
俺はいつも六時半くらいに起きている。
そして最後に時計を見たとき、時計が四時をさしていたのは気のせいだろうか……?
「眠いのに寝られん……」
明日は新クラスの発表と、自己紹介程度で終わるらしい。
授業がないことを心からありがたく思った。




