義妹が向けてくる好意がLikeかLoveかわからないからどう応えたらいいのかわからない件 2話
2話目となります。
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「ただいま」
家の鍵を開けて靴を脱ぎ、いつも通りリビングに向かう。
俺たちの家は、二階建ての一軒家で、元々俺の家族が住んでいた家に、夕嬉と義母さんが引っ越してきたのだ。
結局、夕陽を見たあとは夕嬉にまた腕に抱きつかれないようにしながら、家まで帰ってきた。
時刻はもう七時前。
「兄さん?夕飯余ってるものでしか作れませんけど、何か希望あります?」
後ろから夕嬉が聞いてきた。
情けない話だが、俺は料理が出来ない。
親父が再婚するまで、学校から帰ってきたら多少卵を焼いて食べることが出来る程度だ。
親父が帰ってきたら作ってくれたし、その頃から親父に料理を習いたいと思っていたのだが、中々タイミングが来なかった。
親父が再婚してからも料理は人に任せっきりで、親父とお義母さんは共働きで、俺たちが家に帰ってくる時にはまだ帰ってきてない事が大半だった。
なので、夕飯は夕嬉に任せっきりになってしまっているのだ。
「いや、俺は特にないし、無理しなくてもいいぞ?一日くらい夕飯抜いても死にはしないし」
夕嬉に無理してほしくなくてそう言ったつもりだったのだが、夕嬉はそれを聞いて怒っている様子だった。
「駄目ですよ兄さん。ちゃんと食べないと大きくなれません!」
と、言ってきた。
俺は小さな子供か?ムッとして言い返す。
「大きくなれませんって、もう子供でもないんだぞ」
「何言ってるんですか。高校生っていうのは第二次成長期の真っ最中なんですよ?兄さん、私の部活が遅いと夕飯食べずにお風呂だけ入って寝ちゃってるじゃないですか。そんなんだから中学生の時から背丈がほとんど変わらないんですよ」
「うっ」
夕嬉が容赦なく俺の触れてほしくない部分に言葉の針を突き刺してくる。
そう、中学生の頃、親父が仕事から帰ってきてからの負担を少なくしたかったのだが、自分で料理は出来なかったので、親父が帰ってくる前に寝て、腹を減らさないようにしようとしていたのだ。
そのせいか、中学生の時から高校生二年生の今まで、ほとんど背が伸びていないのだ。
「って、なんでそんな事知ってるんだ。俺とお前、中学は別だろう……」
さっき感じた小さなイライラは無くなっていた。
もう純粋な興味だ。どこから俺の一番触れてほしくない部分が夕嬉にバレたのか。
それを確かめておく必要がある。
夕嬉は意外そうな顔をしてあっさり答えた。
「えっ?前にお義父さんが笑いながら言ってたんですけど」
……親父……息子の心の傷を他人にバラさないで欲しい……。
まぁ他人じゃないけどさ。
「……夕嬉。もうそのことはいいから。俺が悪かった。」
不意に突かれた心のダメージから立ち直れず、俺は夕嬉に言う。
もうこれ以上心にダメージをくらうのはごめんだ。
「まぁ、わかればいいんです……兄さん?何で落ち込んでるんですか?」
「もうそのことはいいって……」
柔らかい手が、俺の頭に触れた。
夕嬉は心配そうに、自分の手を俺の額に押し付けている。
「兄さん、熱でもあるんですか?」
心配してくれるのは嬉しい。さっきは落ち込んでるのをすぐに見抜いたし(見抜いて欲しくはなかったが。)、俺の体調を心配してくれているからこその、この行動なんだろう。
でもな夕嬉。
ちょっと手を押し付ける力が強いっていうかそもそも手を押し付けるってなんかおかしくないか
「いででででで!痛い!痛いって!」
夕嬉は手を俺の額に置きながら、もう片方の手で俺の後頭部を自分の手に押し付けていた。
そして、額に置かれている手も俺に押し付けている。
つまり、完全にサンドイッチ状態である。
夕嬉の力が弱かったら引き剥がせるのだが、悲しいことに、俺は夕嬉にほとんど力勝負で勝てたことはない。
「夕嬉!離せ!痛いって!」
と俺は叫ぶが、夕嬉は力を込めるのを止めない。
夕嬉の手を掴んで離させようとするが、上手くいかずに手は押し付けられたまま。
むしろもっと強く力を込め始めた。
「痛い痛い痛い!夕嬉!いい加減にしろ!」
かなり本気で怒鳴ると、夕嬉がこっちの顔を見ながら、
「うーん、熱は無いみたいですけど、よくわかりませんね」
「ここまでやらないとわからないかなそれ!?」
頭を抑えながら、俺は叫ぶ。
全く、遠慮を知らないんだから……というか、嫌がってるのがあからさまにわかってただろう……
イライラした気持ちがさっきより大きくなって蘇ってきた。
また感情のままに夕嬉に問いかける。
「お前、俺が痛い痛い言ってるのになんでもっと力込めて来たんだよ」
「だって、しっかり手を当てないとわからないでしょう?」
「限度があるわっ!」
夕嬉は「やれやれ……」みたいな感じでドヤ顔だった。
……なんかもう疲れてきた感じがする。もう早く風呂に入って夕飯に食べて寝たい……。
……あれ?
「なぁ、夕嬉。俺たち初めに何の話してたんだっけ……?」
そこまで言うと、夕嬉は「あっ!」と気づいた。
そうだ、俺達は夕飯の話をしていたはずだ。なのに何故俺のトラウマが掘り返され、頭を潰されかけたのか……。
「そうでした……何をしていたんでしょう、私たち……」
やっと夕嬉も落ち着いてくれたようだ。
まぁ確かに俺にも原因があるし、ここは俺から謝って、丸く納めとこう……。
「兄さん?夕飯余ってるものでしか作れませんけど、何か希望あります?」
「デジャヴ!?」
ついついツッコんでしまった。
夕嬉は「何言ってるんだこの人」みたいな顔をしている。
いや、ネタ振ったのそっちじゃねぇか!と言いかけたが、それをいうとまた喧嘩しそうなので言わないでおく。
「え~と、夕食の希望だよな?そうだな……肉ってあったっけ?」
「あったと思うんですけど……ちょっと見てきますね」
そう言うと、夕嬉は台所へ向かった。
俺は二階の自分の部屋に向かい、サッと着替えを済ませる。
下から夕嬉の声が聞こえてきた。
「兄さ~ん!鶏肉と豚肉ありましたよ~!」
「じゃあそれで何か頼むー!」
「わかりました!お任せ下さい!」
夕嬉が料理してるくれてる間に、俺は俺でやることがある。
俺は下に降り、階段の横にある扉を開ける。
そこは……浴室。俺のやることというのは、風呂掃除である。
料理の手伝いが出来ないなら、と思い付いたのが掃除であり、親父と二人暮らしの頃から掃除だけはひたすらしっかりやっていた。
その結果、料理は夕嬉、掃除は俺、と役割がキッチリと別れているのだ。
と言っても、掃除と料理じゃ夕嬉の方が負担が大きいのは目に見えているので、掃除だけでなく、洗濯なども俺が担当している。
風呂掃除は幼い頃、まだ小学生だったときからよく手伝っていたし、毎日やっていると慣れたものだ。
隅々まで磨き、掃除を完了させ、お湯を入れ始めた後、リビングへ戻るといい匂いがしてきた。
夕嬉は鼻歌を歌いながら包丁を動かしている。
タン、タン、タンと規則的なリズムで気持ちいい音が聞こえてくる。
俺はソファーに座って待つことにしたが、今日の確認テストのために昨日少し夜更かししたのもあるのだろう。
少しウトウトしてしまっているかな?と思っていたら、すぐに意識を手放してしまった。
夢を見た。
懐かしい夢だ。子供ながら、父さんがいて、母さんがいて……とても幸せな家庭だと思っていた。
それが突然壊れたのが中学一年の時だったか。
母さんがいきなり出ていって、それ以降帰ってくることは無かった。
そのタイミングが知ってか知らずか、その年の母の日の少し前だったのだ。
母さんに渡す予定のプレゼントも買っておいたし、喜んでくれるか楽しみにしていたら、大きな荷物を持って家を出る母さんを見つけて……
急いで呼び止めると、母さんは俺の頭を撫でながら、
「いい?お父さんの言うことしっかり聞くのよ?」
と言った。
それが、母さんにかけられた最後の言葉だった。
初めは旅行だと思っていたのだが、一週間経っても帰ってこないので、父さんに聞いた。
「ねぇ、母さんは?」
そしたら、いきなり父さんが泣き出して……
そこで俺はやっと理解した。
母さんは家を出ていったんだって。
それ以降、親父は俺のために仕事に一層打ち込んだ。
その分帰りが遅くなって、話す時間も減っていったんだっけ……。
そうだ、あの時は、いきなり家族がバラバラになった気がして、一人でいる時間が多くなって、寂しくて、寂しくて……
「……さん!兄さん!」
「……ッ!?」
夕嬉の声で目を覚ました。
夕嬉はソファーの前に立ち、俺の顔を怒ったような、困ったような顔をして見ていた。
「兄さん……いくら退屈だからって、寝るのはやめてくださいよ。せめてお皿並べるとか手伝ってください?」
「え、ああ……ごめん。ちょっとウトウトしちゃって……」
夕嬉は「しょうがないな~兄さんは……」と言いながらキッチンに戻っていった。
俺も夕嬉の手伝いをするため立ち上がり、キッチンに向かう。
戸棚から茶碗や皿を出していると、夕嬉が思い出したように言った。
「あ、そうだ。兄さん?」
「どうしたんだよ?あ、何か足りない食材でもあったか?」
「あ、いえ。そうじゃなくて。」
夕嬉が目線を反らす。何か聞きにくいことなのだろうか?
「何を躊躇ってるんだよ。いいから言えって。」
「そ、そうですか。それなら……。」
「オホン!」と、まるで朝礼を始める先生みたいな咳払いを入れ、夕嬉が口を開いた。
「兄さん、言いにくいことなのかもしれませんけど……」
「うん。」
「どんな夢を見てたんですか?」
心臓が、ドクン!と、一段大きく跳ねた気がした。




