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046 僕と兄上と、雪の降らない王都



 今話の中で、王都の街並み・暮らしに少々触れています。まだ子供のローレルが、自分の覚えやすいように聞いた話ですので、語っている内容はだいぶ大雑把です。



 今回の、一部の『』は、ローレルが一時的に受信(?)できるようになったナニかです。スキルではありません。ナニかです。






 ★★★



 一年で一番寒さが厳しいと言われるこの日、自分のくしゃみで目が覚めた。


「――んんっ。さむ……」


 暖房もいつもより効きが弱いみたいで、鼻のアタマがつめたい。目を軽くこすって、部屋の中を見回しても暗いままだから、まだ夜明け前なのだろう。

 いつもなら起こされるまでは二度寝しちゃうんだけど、僕は履き物に足をつっこんで窓辺へと向かい、ぶ厚いカーテンをむんずとつかんで、勢いをつけて開けた。

 城でも高い位置にある僕の寝室からは、窓から王都を広く見渡す事ができる。太陽は、今まさに地平線から生まれようとしていて、光が少しずつ、夜の闇から三角屋根や人々の暮らしを洗い出し始めた。


「緑だなぁ……」


 僕は、森の木の葉のように、とりどりの緑色をまぶした屋根を見て、誰に聞かせるでもない独り言をポツリともらす。


 フォレスト王国を象徴する色と言ったら、誰もがみんな緑と茶色と言うだろう。別に国が決めたわけではないのに、王都の家屋敷の屋根は緑色で、玄関扉や窓枠、植木鉢なんかは茶色なのだ。

 冬だから余計にそう感じるのか、ゆっくりとしたスピードで、今日の光を届けてくれる太陽。


「緑だなぁ……」


 王都の屋根を見回して、僕はもう一度口にした。


 長い年月としつきを経て繁栄し続けるフォレスト王国の王都は、人口の増加と共に今日こんにちも拡がっていっている。

 国王が代替わりをした後の最初の事業は、都市計画の見直しが多いみたい。下町やスラムの危ない家とかを豪快にぶっ壊して、新しい居住区を作るらしい。建物の火災対策や地震対策、地下に浄化の魔方陣を設置した下水道、魔物の侵入を防ぐ結界用の石碑を増やしたりしないと、いろいろ大変なんだって。

 都市を拡げるついでに、王宮や貴族街、神殿の周辺以外の区画を再編して、領地を持たない下位貴族を区長に任命。王都の土地は全て王家のもので売買はできないから、彼らは建物を店や住むための部屋として貸して、税金以外を収入としているそう。

 人を集めるために、各区長はそれぞれ目的を持って工夫をしながら、家や道を整備していった。結果として、工房や店が集まる区や、とにかく狭くていいから安い部屋ばかりの区。家賃は高いけど、安全で広くてきれいで設備も揃った富裕層のための区とか、変化に富んだ王都が育っていっている。

 見た目を美しくする目的で、区ごとに建築様式や材料をなるべく合わせたり、それが難しい場合でも屋根の色は統一されている。通りには種類を揃えた植物が育てられていで、町の人々は現在位置の確認に役立てているって。

 僕は王宮の敷地内の屋根に目をやった。マメに手を入れて何度も塗り重ねたりする関係で、城や貴族街や富裕層の屋敷ほど、屋根の色は濃い。薄かったり、色が所々はげていたりするほど、治安が悪かったりするから目安として気をつけろ、と言われたな。

 ……うん。全部授業で聞いた内容だけど、ちゃんと覚えているな。僕は王都からまだ出た事がないけど、ホーリーの話では、フォレスト王国内のどんな小さな村でも屋根の色は緑で、濃い色なのが長や有力者の家なんだって。


 ――コンコン。


 かなり控えめなノックの音がして、グラスが入って来た。いつもよりだいぶ早く起きていた僕を見て、一瞬だけ驚いたような顔をする。


「おはようございます。今日は早くお目覚めになられたのですね。お寒かったでしょう。今、暖房を強めますから」


 グラスは僕に挨拶をしたあと、壁に埋め込まれている魔石に魔力を注いだ。そして、部屋の端から順番にカーテンを開けていく。

 僕の近くまで来た時に、僕はグラスに挨拶を返した。


「おはよう、グラス。今年も雪は降らなかったね」


 中央大陸の南西に位置するフォレスト王国は、暖かい気候に恵まれていて、雪は数年に一度降るか降らないかだ。今日雪が降っていなかったからと言って、今年も雪が降らないと、言い切るにはまだ早い。明日は降るかもしれないじゃないか。

 でも、できれば今日の朝までに、どうしても王都中の屋根を白く染めて欲しかった。

 それを望む明確な理由が、兄上とローズ嬢にはあって、二人の事情を知っていて見守っていた僕やホーリーやグラスも、雪の降るのを待ち望んでいたのに。


 カーティス公爵家の庭で育つ冬にだけ咲くバラは、雪に触れるとその美しさがより一層引き立つらしい。魔法で出した雪だと魔力が多すぎるのか、すぐに散ってしまうんだって。全部ではないが、青い薄ガラスのように変化する場合があって、ローズ嬢はそれをぜひ押し花のしおりにして兄上にプレゼントしたいと、冬がくる度に口にしていた。

 今朝までに雪が降れば――ローズ嬢は火属性魔力を操作して、鮮やかな色を保ったまま、花びらの水分を取り除く事ができるらしい――なんとか栞を作って、兄上との約束を守る事ができたかもしれない。今朝までなら、まだ……。


 僕は、今日着る予定の衣装に目をやる。緑色の儀礼用の近衛騎士団の制服から、飾りをあれこれ外したり追加したものを、今の僕のサイズで仕立てた特別な服だ。

 今日はいよいよ父上の誕生祝いの催しで、ローズ嬢とアコナイトの婚約が、正式に発表される事になる。発表後では、ローズ嬢と兄上が個人的に贈り物をやり取りするのは、危険を伴う可能性が高い。今朝が最後のチャンスだったのだけど、もう……。


 僕が再び窓の外に目を向けると、グラスも同じように窓の外を見た。


「雪、降らなかったね」


「ええ。そうですね」


 僕の言葉に答えたグラスも、どことなく寂しそうだ。僕は空気を変えるように、グラスに質問をしてみた。


「ねえ。黄色っぽい緑が東、白っぽい緑が南なんだよね? 他は?」


「西が赤みを帯びた緑、北の方角は黒を足した暗い緑ですね」


「……ああ、うん。言われて見るとよく分かった」


「王都内を歩く時は、ひさしの色をたまに見て移動するといいですよ。あと、ここ数年で普及してきたのですが。塗料に魔石を混ぜこんで、夜間に僅かながら発光する屋根があります。かなりの高級品なので、王城や高位貴族家が徐々に採用していっているところです」


「光ると何かいい事があるの?」


「侵入者対策ですね。人が乗ると、その部分だけ光が遮断されて発見に繋がります。騎士として見回りをされる際に、覚えておくといいですよ」


「それって、みんな(“影”達)はどうなの?」


「ちゃんとしています(対応策はあります)。ただ……その事について聞かれた時は、どうしようかと思いました」


「ああ……。(兄上は屋根に登る)予定があるんだ?」


 カーティス公爵家でも光る屋根を取り入れて、兄上は自分ならどうするかを考えでもしたのだろう。

 ある時突然、私室の位置を変えた兄上。兄上にしては珍しいワガママに、使用人達は戸惑っていたけど。新しい部屋の窓からはカーティス公爵家の屋敷がよく見えていて、僕は納得したし、ホーリーは兄上に詰め寄っていた。


「当然の事ながら警戒をして、詳細を漏らさないよう注意をしていました。しかし、あの方ならではの手が使えるという問題がありまして」


 グラスは言いながら、窓の端に視線を向けた。これもフォレスト王国ではポピュラーな、建物にはわせた植物だ。屋敷と庭と植物とをまるで一枚の絵にみせるように、各家で競い合っている。『庭師』の他に『蔓師つるし』なんて職業があるのは、フォレスト王国ならではだと言われている。

 庭師よりも建物の構造や部屋の配置を詳しく知る事ができるし、罠を隠すにも適しているからと、発祥と総元締めが王家の“影”だと知った時は、いっそ感心してしまった。


「(リンデン王子は、木属性)魔法で強化しながら(登って)行けばいいか。と呟いていたのを耳にした時は直ぐ様報告をして、(カーティス公爵家のローズ嬢の部屋の周りに)罠を増やして頂きました」


「それって、(あの双子は)どうなの?」


「(あの双子なら)使用人用の出入口から、普通に出入りできますから。正直、年齢が離れていて助かりました。(城や公爵家の屋敷より、シード学園の)寮の方が警備が手薄なのです。(リンデン王子の)今の実力でも、本懐を遂げる事は可能かと」


「わぁ……」


 本当に、兄上はドコへ行くつもりなのだろう? いや、自分の口で言っていたけれど。


「さ、部屋も暖まってまいりましたし、身支度を整えましょう。今日の予定は朝から沢山ございますから」


 グラスは僕に声をかけながら、洗面用具の準備をする。その様子を見ながら、僕は首を傾げた。

 この半年の間にあった、重大な変化。グラスは僕の専属の従者になって、兄上には兄上の従者がついたのだ。ただし、兄上の従者はここ数日は別件で動いていて、その間は前と同じように、グラスが僕と兄上の両方の前に顔を出していたんだけど。


「兄上を起こしに行かなくていいの?」


「問題ありません。流石に彼も、今日は“表”の仕事に復帰しましたから」


 グラスのその言葉に納得した僕は、一つうなずいてから、シャツの袖をまくり始めたのだった。



 ★★★



 ヘーゼル叔父上の前で兄上が本性のごくごく一部をさらけ出して、父上達が呆れたヒミツの昼食会の後の、父上や母上との食後のお茶の時間。

 いつもの部屋の奥側のソファーに父上と母上が並んで座っていて、今日は二人の背後にカクタスとヘーゼル叔父上が立って控えていた。

 プラムがお茶の用意をしているところにグラスが手を貸しに向かったのを見ている時、声がかかる。


「リンデン、今日は私の前に座りなさい」


 母上が座る場所を指定するのは珍しい。この前、兄上からヘンなコトを聞いたせいか、母上の笑顔からは妙な圧力を感じる。……気のせいだよね?


 母上の向かい側に兄上が、父上の前に僕が座ったところで、お茶が配られた。父上が優しい顔で僕にお菓子をすすめてきたので、僕も笑顔で受けとる。

 決して、僕も父上も隣の二人がただ笑顔を浮かべているだけなのにコワイから逃げているワケではない。断じて違う。と、思いたい。


「ヘーゼル様から、事のあらましを聞きました」


 お茶を一口飲んだあとの母上はそう言葉を告げて、かすかに息を吐き出した。僕と兄上が視線を向けると、ヘーゼル叔父上は、「ケケケケ……」とイタズラが成功した子供のような笑顔で兄上を見つめる。


「話を聞いた時には、カーティス公爵夫妻も同席していたの」

『こうなる事は予想できていたでしょうに。私の息子らしくないわね』


 ……アレ?


「申し訳ございません、母上。若気の至りです。お恥ずかしい」

『作戦の修正を余儀なくされたもので。私の想いを、知るべき人には知っていてもらおうと』


 アレアレ?


「一つ、これだけは確認したいのだけど。リンデン。あなた、小さいものが好きなの?」

『もし幼女趣味なのだとしたら、早めに除籍して、神殿預かりにしてもらわなければね』


「私はそのようなモノではありません。ローレルやホーリー、グラスに確認して頂ければハッキリすると思いますが。私の心は一つであり、成長し、可憐に花開くのをただただ待ちわびている傍観者ですよ。今はね」

『そんな小さければ誰でもいいみたいなくくりにしないで頂けますか? 心外です。私はローズ嬢以外の一切を、相手になどしておりません。彼女が大人にまるまではでるコトに全精力を注ごうという、その分別だけは辛うじて持ち合わせがありますよ。今はね』


「今は、ね……。まぁ、確かな未来さきなど、どうなるかはわからないものね」

王妃側あちらも。傀儡王子を育てたいにしては、何かと手落ち感が否めないわ。情けないこと』


 アレアレアレアレ? なんでだろう? 僕、母上と兄上のやり取りから、建前と本音が感じられるような……。どうしよう? 僕も【心読み】のスキルが身についちゃったのかしら?


 母上はカップのお茶を優雅に飲み干した。心得たもので、プラムがサッとおかわりを用意する。


「陛下もお認めになったのだけれど、リンデンに婚約者おあいてが定められない現状――静観するしかありません。大人しくしていなさい」


 そう言って、母上は兄上の口に小さなサイズのフルーツタルトを押しこんだ。

 僕が「おいしそう、いいな」って思って見ていると、母上は微笑んで僕にも食べさせてくれる。一口サイズのタルトは、旬の桃とカスタードがおいしい。

 兄上と二人で、モグモグと食べてお茶を飲んでいると、母上は笑みを深めて口を開いた。


「いいですね、リンデン?」

『下手に動くようなら、誰かに潰される前に、この私が消しますから。そのつもりでいて?』


 ニッコリと微笑んだ母上に、兄上と僕と父上は、そろって「ごくん」とお茶を飲みこんだのだった。




 読んで下さって、ありがとうございます。



 久々に女性が出ました。ママが出ました。書いてから思いました。側室のアザレア様、こんなキャラクターだったんですね。

 大・丈・夫! リンデンも母親達(アザレア&カメリア)にはかないません。良心はちゃんとおったんや……。

 ママにリンデンをシメて頂きました。



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