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043 僕と兄上と叔父上


 お待たせいたしました!

 ただいま戻りました!

 久しぶりの更新です!!


 ……エタるかと思った〜〜!

 エタりかけたけど、エタりきってはないよ。 


 なんか、「腐りかけ」「腐りきった」みたいで、やだな。


 言い訳は、後書きで。


 今回も筆談『。』あります。





 ★★★



 ――ガァン!


 やや鈍い音を発しながら、僕の手の中にあった木剣が青空を切り裂くように宙を舞う。目に見える怪我はしてないけど、今のはかなり骨に響いた。イテテ……。


「今日はどうした? 集中力が全然足らんぞ」


 模擬戦の相手をしてくれたヘーゼル叔父上が、僕の首筋に木剣を当てた状態で話しかけてきた。

 ヘーゼル叔父上は父上の弟の一人で、今は近衛騎士団の団長の地位についている。何人かいる、僕と兄上の剣の師匠だ。


 短く刈り込まれた焦げ茶色の髪に、若草色の瞳を持つ叔父上。レンガ色の髪とフォレストグリーンの瞳を持つ僕と並ぶと、「親子みたい」だとよく言われる。

 色の濃淡の違いはあるけれど、茶系統の髪色に緑色系統の瞳で【身体強化】に秀でているのがフォレスト王家の基本的特徴みたいなのだ。

 王に子が何人か生まれれば、必ず一人はこの色と魔力的性質を持つ。父上の兄弟の中では叔父上が、子供の中では、僕がそれに当てはまる。ちなみに、先代国王――僕のお祖父様は、シナモン色の髪にジャスパーグリーンの瞳で肖像画には描かれていた。

 兄上のように、体外に魔法を発動するのが得意だったりすると、司る属性が髪や瞳の色に現れたりするけどね。

 その点で言うと、父上とアコナイトの持つ色――紫碧色の髪に空色の瞳――は、文字どおり少々毛色が違う。伝え聞いた話によると、二人とも扱える魔法の系統は【身体強化】が主らしいのに。あの髪は父上とアコナイト、二人だけなのだから不思議である。


 ★


 ヘーゼル叔父上が木剣を下ろしたので、僕は一歩下がって礼をした。


「ありがとうございました。……ちょっと、考える事があったんです」


「ローレルがか!?」


「僕だって、思い悩む事くらいあります!」


 叔父上が大げさに僕の名前を呼ぶから、僕はちょっと「ムッ」として、少しだけ頬をふくらませる。

 悩みくらいあるさ、僕にだって。兄上の事とか、兄上の事とか、兄上の事とか。……兄上の事ばっかりだな。


「何だぁ? 好きな女の子でもできたのか?」


 僕の髪の毛をくしゃくしゃにしながら、からかうように聞いてきた叔父上。その表情は「ニカッ!」と豪快でありながらさっぱりとした、叔父上の気性そのものの笑顔で、僕はけっこう好いていた。

 ……『好きな女の子』の事か。あたらずといえど遠からずだな、兄上の場合だけど。


 僕が、自分で言うのもなんだけど、ビミョーな顔で答えあぐねていると、叔父上は僕の肩を抱き寄せて、こそこそと耳打ちをしてくる。


「オイオイオイオイ、こりゃマジか。どれ、頼りがいのある叔父さんに話してごらんなさい。贈り物選びや口説き文句において、妻に散々ダメ出しを食らい続けたからこそ、ようやっとの事で鍛え上げられた恋愛スキルで、適切なアドバイスをしてやろう」


 叔父上はなんだか、不安しかない事を言ってきた。兄上は「ヘーゼル叔父上は信頼して大丈夫」だと断言していたけど。どうしよう? 別のイミでアテになりそうにない。


「僕の事じゃないですけど。昨日ちょっと……」


 僕と兄上とグラスの三人で、長い時間書き取りをした。一度にたくさんの情報が入ってきて、僕は少し混乱してしまったのだ。夕べはよく眠れなかったし。


 僕は叔父上を促すと、二人で木陰に移動して地面の上に直接座る。そこに叔父上の部下の人が、冷たい果実水を差し入れてくれた。

 ゴクゴクと飲み干して喉を潤してから、僕は地面に文字を書くべく、落ちていた木の枝に手を伸ばしたのだった。



 ★★★



「リンデンがそんな事をねぇ……」


 あぐらをかいた状態で話を聞いてくれる叔父上に、昨日のやり取りをかいつまんで説明する。

 左手で頬杖をついて、右手で木の枝をプラプラともてあそんでいる叔父上は、呆れ半分・感心半分といった声音で呟いた。


「まぁ、これもかなり極端な意見だと思うけどよぅ。割り切りが良すぎるというか何と言うか」


 叔父上は言いながら、僕が地面に書いた『首。』の字の下を木の枝でトントンと叩いてから、ぐりぐりと丸で囲った。


「何をどうして十三歳でこの考えに至るのかね? やっぱり違うのかね、器ってやつが」


 ……そう言えば、兄上がなんでこんな考え方をするようになったのか、とか、そういう話まではしてなかったな。

 ずっと一緒にいるのに、まだまだ聞きたい事とか話したい事があるんだなぁ。「兄上が近くて遠い」って感じていたら、僕の手から木の枝がこぼれ落ちてしまった。拾い上げる事もしないで、生じてしまったぶんの距離を、僕はただぼんやりと眺める。


「ローレルは……、やっぱりあれだな。俺に似ているよ。優秀な兄弟に恵まれ過ぎちゃったところとか。年の差もあるし、母親が違うっていうのもあるけど。俺はいつも兄上を、陛下を見上げてばっかりだったな」


 僕は、ほとんど自然にコクンとうなずく。『見上げてばっかり』っていうのは本当にそうだと思う。兄上の背中を、兄上の思考の先を、僕はいつだって背後から見ているばかりだ。


「さて、そんなローレル君に、叔父さんから一つ提案があります」


 僕はコテンと首を傾げて、木の枝を振る叔父上の次の言葉を待った。なんだか楽団の指揮者のようだな。


『ズバリ! 叔父さんの後継者にならないか? 次代の近衛騎士団長だな。』


 叔父上が書いたこの意見に、僕は驚いて目を見開いた。

 この時初めて詳しく聞いた、近衛騎士団団長の選考基準なんかの話。その中で僕が一番気をかれたのは、


『過去、近衛騎士団長に就任した王位継承権保持者が、王座についたためしはない』


 という実績。……皇太子候補からほとんど外れたと見なされたら、“社会勉強”の機会も減って、兄上もラクになるんじゃないか? いや、兄上に標的が絞られて、かえって負担が増えてしまうんじゃ……。

 僕があごに手をあてて考えこんでいると、叔父上が突然ガバッっと立ち上がって、抜き放った剣先を木の後ろへと向けた。

 何が起こったのか把握できなくて、一拍遅れてから、僕も背中を預けていた木の方を振り返る。


「いいんじゃないかな? 私はアリだと思うよ。もちろんローレルにその気があればの話だけど」


 座ったままの僕の頭の上から、聞き慣れた声が下りてきた。

 視線を動かすと、叔父上が向けた剣先を、手に持ったバスケットで受けとめているグラスが立っている。回復術師団に顔を出していた兄上は、にらみあう形になった叔父上達とは反対側からひょっこりと顔をのぞかせて、地面の文字を目で追っているようだ。


「……チッ! 気配を消して近付いて来るなよ」


 言いながら、叔父上は剣を鞘に納める。


「グラス達に習ったから、実践?」


「今の段階でヘーゼル様にここまで近付く事ができているのですから、リンデン様は素質が十分にございますよ」


「やった。まぁ、たしなみとして必要だよね」


「たしなみって。ドコを目指しているんだ、お前は。どんな第一王子だよ。ったく……!」


 叔父上は左手で眉間をもみほぐしながら、長く息を吐き出した。


「ドコって。それはもちろん……天井裏?」


「は?」


 兄上が、自らの思考にハマり込みながら口にした言葉に、叔父上はすっとんきょうな声を上げる。

 僕は思った。これは兄上にしゃべらせ続けたらヤバイやつだと。グラスもきっと、僕と同じように考えているに違いない。

 聡明で賢明なる兄上は、幸いにして我を忘れるような事はなかった。木陰に腰を下ろして、僕がさっきまで書き取りに使っていた木の枝を手に取ると、ほとばしる思いの丈を大地に刻み込んでいく。


『寝顔が見たい。』


「え?」


『一晩中、飽きる事なく見続けられる事だろう。もし彼女が、夜中に肩を出して寒さに震える事になったなら、そっと毛布をかけ直してあげたい。あのフワフワ弾む豊かな髪の毛を手で梳いて整えて、前髪に口付けを落とすんだ。〜〜ああ、うっかりガマンができなくて、可愛らしい鼻先にキスをしてしまったらどうしょうか?』


「……! ……!! ……!?」


 叔父上が息をのんで、得体の知れない苦いモノを見る目を兄上へ向ける。

 対外的には、真っ当で大人しい気質に映っているらしい兄上。ローズ嬢が絡むと、こんな風にザンネンになってしまう兄上。本性を丸出しにした姿を初めて目の当たりにして、叔父上の中の兄上の人物像は、ガラガラと音を立てて崩壊してしまったんじゃないかな?

 僕はグラスの方に視線を向ける。表面上は優秀な使用人らしく、感情を悟らせない澄ました表情だが、その瞳に浮かぶのは、「正体こそ知れているが、やはり別のイミでの苦さ」だ。

 たぶん僕は、グラスと同じような目で兄上を見ている事だろう。


『もしも彼女が着替えを始めたら? うん。見えてしまったものはしょうがない。入浴、、、あの館は更衣の為の部屋に、内側からしか開けられない脱出路があるようだから、そこまでの経路も押さえたいな。』


「何故、その情報を……」


 グラスがうめくように呟いた。おそらくは兄上が拾った双子の姉弟だろう。あの二人はグラスを上司だと思ってはいるが、『主人』だと見なしている兄上に直接声をかけられると、色々としゃべってしまう。

 兄上にも二人にも「必ず自分を通して遣り取りを行うように」と、グラスも釘をさしてはいるんだけどね。


 兄上は、見る人をとりこにしてしまうような、頬をほんのり赤く染めた、まばゆい笑みを浮かべた。木の枝でトントンと地面を叩いてから、胸の高ぶりを鎮める為のように、心の内をさらけ出していく。


『音から想像して、楽しむのもアリか。いつか必ず一緒におフロに入って、髪を洗ってあげるんだ。ああ、今から待ち遠しいな。必ずイクから、それまでどうか待っていて欲しい。』


 あの笑顔は、なにかよからぬ事を想像した時の笑みね。よし、学んだ。一つ賢くなったよ、僕は。……って、それをどう活かせばいいの?


「グラスぅ……」


 どうしよう、兄上ホント、どうしよう。

 僕はすがるように、情けない声で兄上を止めてくれそうな大人の名を呼ぶ。僕だけじゃ、とてもじゃないが手に負えない!


「大丈夫です。リンデン様の成長は著しいですし、才覚はおありですが、本職にかなう程ではありません。あちら側の警備に阻まれて、成就はなりません」


「リンデン。ローレルも。今から陛下の元へ行くぞ」


 ある程度慣れてきていた僕やグラスと違って、兄上の性癖にショックを受けただろう叔父上は、片手で顔をおおって、疲れたような声を発した。


「今からですか? 叔父上達とお昼をご一緒しようと、持ってきたのですが」


 兄上は叔父上の言葉を聞いて、手をはたいて立ち上がってから、グラスに持たせているバスケットに目を向けた。


「陛下の元へ行って、一緒に食べよう。今は、カーティス公爵と懇親の為に、昼食を共にしている予定だ。スープくらいならありつけるだろ。ローレルの将来の事の相談と、……とにかく報告したい事がある。ほら行くぞ」


 叔父上はそう言いながら、地面の文字を力強く踏みならす。グリグリザッザッと、いっそ執念深く、跡形もなく消し去った。

 ……気持ちはわかりますが、それで兄上がどうにかなる事はないですよ、叔父上。




 読んで下さって、ありがとうございます。



 この先、言い訳タイム。


 突然、筆が進まなくなりまして。下手をすると、一日一行ペース以下。

 思考(妄想)は働くから、別の作品を執筆・掲載してみたり。

 でも、『ローレルの視点から』が書けない……。


 叔父に悩み相談→近衛騎士団団長を勧められる→時を早めてリンデンが学園入学……で、パパっとストーリーを動かす予定でいたのに、一行書くごとに沸き上がる「コレジャナイ」感。


 止まりましたわ、手が。原稿すら広げない日々。

 何をしていたかと言うと、今止まっていた部分の少し先からを練っていました。


 つまり、叔父上とのやり取りを削除すればすむ話じゃない? でもなぁ。



 何度か、書いては没、書いては没を繰り返し。物語を最初から途中から読み返し……。


 先月後半辺り。登場させる予定ではなかったリンデンを、出したり引っ込めたりを脳内で演出。

 「やっぱり出すかー」で、043話(仮)を最初からイメージして、それを書き取って。

 その稿の最初はヘーゼルの「ったく!」セリフ後、ローレルの語りで直ぐに城への移動で「★★★」だった。


 「やはりしっくりこないなぁ」と、読み返す。その時突然、リンデンが口を開いた!


 ヘーゼル叔父さんに


「ドコへ行こうと言うのかね?」


 と、問われ


「天井裏?」


 と。リンデンが口にした瞬間、彼は天井裏から見たいもの、やりたい事を指折り妄想し始めて……。


作者「はいぃ? そんな、性癖の暴露とか、予定になかったよ!?」


 結論から言って、私はコレでエタりかけを脱出できました。


 うん、そう。この章は

『ローレルの視点から』。

 ローレルが、誰を見てナニを見てお送りするのかっていうのを、作者が見失っていただけでした。

 元々のジャンル『恋愛』。ローズとリンデンと、二人で主役なんだよね。


 それを言うと、元々一万字で収まらなかったのは、リンデンのセクハラ治療だしなぁ。最初からリンデンの手の内だったのか……。


 前から薄々思っていたけれど、リンデンの一人称って、確実に「ムーンライト掲載」だろうな。書く予定はないですが。


 今回、間が空いてしまったのは、リンデンがほとばしる思いの丈を訴えたかっただけです。

 脳内の世界観にゴーサインが出なかったら、初心リンデンにかえればなんとかなるような気がしてきた。


 長々とすいません。もしまた執筆の手が止まりかけたら、キャラクターの主張を見落としていないか、無視して進めていないか、振り返ってみることにします。



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