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022 怒りで【禁呪】を解き放つ



 ★★★



 太陽が地平線からすっかり顔を出した頃、一晩中戦い続けた一同は『キボウが丘』で休息を取っていた。


「目痛い」

「太陽が眩しい……」


 途中ドラゴン達に、【疲労回復】や【身体強化】の補助魔法を掛けてもらった事もあり、継続して戦い続ける事が出来たが、解けた反動も大きいのか、さすがに疲労困憊である。

 今はローレルを従えたリンデンや回復術師達が、負傷者の治療を続けるのを見守りながら、『ガンバン』の従業員達が朝食の準備をするのを待っていた。

 メニューは、野菜の旨味の溶け出したスープ、目の前の鉄板で炙られるベーコンとチーズを温野菜と共に挟んだパン、果物と果実水だ。

 治療中の第一王子を差し置いて、下下の者から食べ始める訳にはいかない。今一番緊張しているのはベストなタイミングで配膳しようと心掛ける『ガンバン』のスタッフ達であろう。


『お嬢ちゃんの最後の魔法、アレかっこ良かったな』

「目で敵を見定めて、あとは追尾機能を付けた『ロケット花火』を一斉発射」

『板〇サーカスみたいでカッケー! 俺もやりたいなぁ』

『ドラゴンのままじゃ無理よ。繊細さとは程遠いし、明らかにオーバーキルになるでしょ』

『違いねぇ』


 リンデンはちらりとローズの方を振り返る。レッドドラゴンと仲が良いのが気になって仕方がないのだ。妻だというスカイブルードラゴンと、互いに尻尾を絡めているのを見ていなければ、強引に引き離しに行った事だろう。


 それから程無くして、治療が終わり、朝食が配られる。近衛騎士達が念の為に毒味をして、二人の王子から食べ始めた。


『食べながらでいいから、聞いて欲しいんだけどよ』

「“事情”についてでしょうか?」

『おうよ。王都の向こう側にもドラゴンいんの知ってる?』

「『ダンソウの谷』の事でしょうか? ブラックドラゴンがいて、祀る神殿もありましたよね」

『それよ、それ。『断層の谷』な。あっこの神殿、ドラゴンを崇める為のモンじゃないって知ってた?』

「……いえ、知りませんでした」

『あそこは封印の為の施設なのです』

「封印?」

『世界にはさー、なんつーか色んな流れがあんだよねー。分かりやすいのは、風の流れとか水の流れか。ここまではいい?』

「はい」

『大陸の流れや魔力の流れもあってー、瘴気の流れっつー、ヤバイもんもあんだわ』

「話の流れからすると、『ダンソウの谷』の神殿は、瘴気の流れを封印している、と言う事でしょうか?」

『せーかーい!』

『昨年の春頃、封印の為の要石を破壊した人間がいたのです』

「昨年の春頃……ですか?」

『じわじわと瘴気の滲み出る量が増えちゃってさー、バランスが崩れちゃってさー、魔物が大発生したのがさー、今年の春ね』

「「「!?」」」


 一同はドラゴン達の話に驚きを顕にする。


『春が『断層の谷』の近くの『金色野平原こんじきのへいげん』、今がこの『樹海の森』、次が……』

「「「次!?」」」

『あるよーそりゃ次がさー。瘴気の“流れ”ってくらいだもん』

「一連のトラブルは人間が引き起こした事であり、ただ魔物を倒すだけでは解決しないという事ですか?」

『その通りです』

『ブラックドラゴン、一番上の子なんだけどさ。何とかバランスをとろうとはしてたんだよ。だけど、去年の夏以降、封印の力があらぬ方向に流れていって、過剰に使われちゃって、激ヤバなんだよね』

『瘴気の流れは他の大陸にもありますし、封印は全てのバランスを均等にする必要もあるのです。ですので『断層の谷』のブラックドラゴンは、他の大陸のドラゴンとの連係に支障を来して、問題の解決にも思うがままにならない状況なのです』

『リンちゃん――おーじ達には、犯人捜して身柄を引き渡して欲しいんだよねー』

「その人物の特徴は?」

『ブラックドラゴンからいいもん預かってんだよ』


 レッドドラゴンは爪先をちょいちょいと動かす。すると光が集まって、ある人物の姿を形作る。

 それを見た冒険者や兵士達は、首を捻ったり「知ってるか?」「いや」等の情報を交換したりしている。

 ただ、ローズを始めとした、あるスキャンダルに近しい面々や、ある程度の地位や役割に就いている騎士などには見覚えがあった。あり過ぎた。


【ピーチ・ローリー男爵令嬢のフィギュア】

〔1/1スケール、冒険者コスでとんずらVer.、着色済〕


「……か」

「ローズ様?」


 ローズは怒りに任せて、ふるふる震えながら立ち上がる。慣れたからか、レッドドラゴンのウロコによるドーピングのせいか、過去最速で魔力を練り上げて“バクダン”をパイ投げよろしく叩き付ける。


「『ヒロインんん』キサマのせいかー!」


 ローズの怒りが暗黒の煙となってピーチ像を包み込む。


『ちょっ! 壊さないでよ、預かりモンなんだから』


 レッドドラゴンの慌てふためく声を聞きながら、事の成り行きを見守る一同。


 やがて、黒いモクモクの煙が雲散霧消していく。


【ピーチ・ローリー男爵令嬢のフィギュア】

〔1/1スケール、素肌にオーバーオールで爆破オチVer.、イベント限定パール塗料着色済〕


(はっ! いけない。怒りで【禁呪・アフロ】を解き放ってしまった)

(衣装にバリエーションが出てきたな。その内スク水とかでてきたらどうしよう?)

(もはや『破損済眼鏡』では驚かぬ!)

(だがしかし、その前歯はどういう事だ? 高質クリスタルガラス? え? ダイヤ!?)


『――は?』


 一同を代表して、レッドドラゴンが驚きの声を代弁してくれた。

 と、思ったら――


『ふっ、ヤベェ、コレ、ちょっ』


 次の瞬間、レッドドラゴンの巨体が消え失せ、リーゼントの赤髪、金眼、特攻服姿の二十代前半のあんちゃんが現れて、フィギュアを繁々と観察する。そして、「ちょっ」「ヤベェ」「ウケル」「コレ」「マヂで」の言葉と笑い声を組み合わせて転げ回り始めた。


『ああなると十分や二十分は掛かります。放置で結構です』


(おう、レッドドラゴンの中の人、なかなかすげーの出てきたな)

(背中の刺繍『怖欺夷悪』? 『ふぎいあ』? 『プギャー』とか言わないよね?)


『先程、“ヒロイン”とか仰っていましたが、あの女性に心当たりがあるのでしょうか?』

「……あの女性は他でも問題行動がありまして、王宮のとある一部で滞在してもらっています」

「マヂで!? もっと早く問い合わせれば良かったな! 『自分で出来るところまでやってみます。キリッ!』とかアイツがいうから任せてみたのによー」

『身柄の即時引渡しを要求します。彼女が取り込んでしまった“光属性”の魔力を、封印の要石に戻さなければ、封印が不完全なまま、瘴気の流れの乱れから、魔物の変異が多発するでしょう』

「今なら『次』を防ぐ事が出来るでしょうか?」

『いいえ、もう影響は出始めています。今ならこれ以上悪化するのを抑えられる、というぐらいです』

「ちなみに場所は?」

『『樹海の森』を抜けた先にある洞窟です。以前からダンジョンと化していましたが、魔物の凶悪度、全体の難易度が跳ね上がる事でしょう。中の魔物が溢れ出る事も考えられます』


 スカイブルードラゴンの話を聞いて、顔を見合わせるリンデンとローレル。『ジュカイの森』の向こう側のダンジョンは、隣国の領土なのだ。事と次第によっては、現在の友好関係に皹が入りかねない。


「彼女の身柄の引渡しに応じます。今すぐにでも王都に向かいますから」

「ああ、んじゃ王都の神殿に連れてってやるよ。俺【転移】使えっから。受け入れ先の都合だけど、十人位なら簡単だからよ」

『その格好じゃ不味いよ、旦那』

「あー、着替えてくっか。一時間後でいいか?」

「はい、こちらもそれでお願いしたいです」

「わーった。あー、代表してお嬢ちゃん」

「はい」

「夕べ一晩でヤベーのはツブしたけど、魔物そのものを全部ブッコロしたワケじゃねぇ。これまでのよりガタイがいいのがウロついてるし、封印までに時間が掛かりゃあ変異種になる」

「……つまり、討伐し続けろと」

「がんばったから二〜三日は休んでいいと思うけど、安心してこの地を去っていいわけじゃねぇ」

「わかりました。封印が成されるまで、セレステブルー湖周辺の魔物討伐を続けます」

「おー、そうしてそうして。じゃ、一時間後にまたなー」


 レッドドラゴンは人の姿で、スカイブルードラゴンの手の上に集会座りになり、笑顔でメンチを切ったまま、『レイホウ山』へ飛び去っていく。


 リンデンとローレルは、王都から同行したメンバーに召集を掛けて、それ以外の人々に関しては、今日一日を休養に充てるよう指示を出して解散とした。

 ローズは、ピーチのフィギュアがそのまま放置なのを気にしつつ、疲れた体で睡魔と闘いながら、『ガンバン』に戻るリンデン達の後を追うのだった。


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