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第48話 王門投票

地上座標が爆破解体される前日の朝、地下各地の水場で投票が始まった。


 水場を投票所にする案へ、最初に反対したのは外縁集落の代表だった。


「水脈は女王の術が届く場所だ。票を誰が入れたか読み、反対した者を後で罰するのではないか」


 当然の疑いだった。


 私は投票装置の設計を変更した。


 投票札には一回限りの集落認証だけを入れ、氏名や個人魔力は残さない。水脈の途中で賛否を数えた後、文字は消え、記憶庫へ届くのは集落ごとの総数と無効票だけだ。誰が反対したかは、私にも追えない。


 一方、開門時に魔力を出す者の同意印は、撤回を反映するため本人の魔力紋と結びつける。ただし投票とは別の台帳へ封印し、開門技師以外は閲覧できない。


 問いも二つに分けた。


『王門を地上との交渉、証拠保全、住民救助のため開くことへ賛成するか』


『開門が決まった場合、自分の魔力を定めた上限まで提供することへ同意するか』


 開門には賛成でも病気で力を出せない者も、力は出せても目的に反対する者もいる。二つを一緒にすれば、賛成票がそのまま身体の提供許可へすり替わってしまう。


 投票開始の前に、私は水脈通信で各集落の質問を受けた。


『地上へ出た軍が、王家ではなく市民を襲わない保証はあるのか』


「門の使用目的は、証拠保全、拘束された証人の救出、星脈炉の停止です。民間人への攻撃は禁止し、違反した部隊は指揮権から外します。地上側の地方神殿と記録院にも監視を頼みます」


『王家が門へ砲撃したら、地下まで火が来る』


「危険はあります。攻撃時には門幅を物資孔まで縮めますが、危険がなくなるとは言いません」


 私は賛成を求める演説だけをしなかった。


 一人を燃やす緊急起動なら、短時間で開けること。分散方式は実験が一度失敗し、参加者に軽傷が出たこと。地上座標が破壊される期限。開門後に予想される王家軍の抵抗。


 不利な情報も、先に示した。


 水場の一つで、子どもを王国軍に奪われた母親が立ち上がった。


「私は王家を許さない。でも、また戦争で別の子が奪われる門なら、開いてほしくない」


 彼女は反対票を入れた。


 隣にいた男が「裏切り者」と口にしかけると、投票所の監視役が止めた。


「賛成を強いるなら、王家の投票箱と同じになる」


 その言葉が、水場にいた全員へ届いた。


 最初の三時間、賛成は必要数へ届かなかった。


 その間、強硬派の支配が残る小集落から、開門賛成百パーセントという不自然な集計が届いた。


 票数も認証も正しかったが、投票時間が短すぎた。


 現地の反対派から、こっそり打音通信が入る。


『代表が水場を兵で囲み、反対札を入れる者は配給から外すと言った』


 私はその集計を成立数へ加えず、近隣三集落から賛成派、反対派、中立の水路番を一人ずつ監視に招く再投票を求めた。代表が拒んだため全票を保留にした。賛成を増やす数字でも、脅迫で得たなら票面だけ正しい偽造と変わらない。


 焦りはあった。地上側の爆破隊は、旧聖堂区へ火薬を運び始めている。


 それでも、投票終了時刻を勝手に早めたり、棄権を賛成として数えたりはしない。質問が残る集落には、現地の記録守と技師が向かった。


 私は中央の集計盤で待った。


 正午過ぎ、外縁第三集落の水場から連絡が途絶えた。


 ガレス残党が、投票槽へ砕石を投げ込み、送水管を爆破したのだ。続いて二つの集落で、黒環の残骸を使った妨害信号が検出された。


 同時に、「開門へ反対した集落は女王軍が水を止める」という偽の布告が流された。私の女王印を似せていたが、発行時刻が記憶庫の時刻印と合わない。


 私は布告を消すよう命じるのではなく、本物と偽物の両方を並べ、照合方法を各水場へ送った。印章の見た目ではなく、誰がいつ発行し、どの記録へ繋がるかで確かめてもらう。


 一度広がった噂は、訂正文一枚では消えない。投票を見送った集落の棄権も、騙された結果だとして勝手に数え直すことはしなかった。


「中央から部隊を送りますか」


 防衛代表が問う。


 私が全投票所の警備を直接動かせば、女王の軍が投票を監視する形になる。


「各集落の要請があった場所へだけ送って。投票箱ではなく、住民の避難を優先。票を守るために人を危険へ残さないで」


 外縁第三集落からは、救援要請と同時に別の報告が来た。


 住民自身が砕石を取り除き、古い共同井戸を臨時投票所にすると決めたという。投票監視には、賛成派と反対派から一人ずつ立った。


 私は壊れた水場を遠隔で直そうとはしなかった。現地の水路番が繋いだ細い管へ、記憶庫の時刻印だけを送る。どの票が襲撃前で、どの票が再開後かを区別するためだ。


 別の集落では襲撃者の即時処刑を求める声が上がったが、現地代表は拘束と公開審理を選んだ。


 夕刻、すべての投票所が閉じた。


 記憶庫の集計盤に、賛成、反対、棄権、無効の数が集落別に現れる。


 王門開放への賛成は、六割余り。


 反対は三割近く。残りは棄権と無効。


 圧倒的な総意ではない。それでも、事前に定めた地域数と種族別の成立条件を満たしていた。


 魔力提供への同意者は、賛成票より少ない。


 試算上の必要量を、わずかに上回るだけだった。途中で何人かが撤回すれば、門は開かない。


 ラウルは評議会の審査を経て、期限付きの共同管理者に承認された。賛成票だけでなく、反対票の総数も読み上げた後、二人で起動記録へ署名する。


「開門の決定と、魔力提供の同意を別々に確認しました」


 私は水脈通信へ告げた。


「反対票も、開門後の再審査に残します。魔力提供は、起動中でも撤回できます」


 最初の同期信号が、水脈核から地下全域へ送られた。


 その瞬間だった。


 四つの投票所で、王家式の地中杭が一斉に起動した。


 ガレス残党の小規模な妨害ではない。地上から水脈の位置を測り、王国軍が同時に打ち込んだ攻撃杭だ。


 投票を終えた人々が、今度は魔力提供を続けるか、自分と家族を守るため撤回するかを迫られていた。

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