桜の下で
⸻
春。
校庭の桜が満開になった。
⸻
風が吹くたびに、
花びらがふわりと舞う。
⸻
昼休み。
⸻
「海くん!」
⸻
「なに」
⸻
「見て!」
⸻
茉白が桜の木の下で手を広げる。
⸻
ひらひら。
⸻
花びらが肩や髪に落ちていく。
⸻
「すごい!」
⸻
嬉しそうに笑う。
⸻
海人は少し離れたところから、その様子を見る。
⸻
(……楽しそうだな)
⸻
思わず口元が少し緩む。
⸻
「海くんもおいで!」
⸻
「……めんどくせぇ」
⸻
そう言いながら、
結局歩いていく。
⸻
「ほら!」
⸻
茉白が地面を指さす。
⸻
桜の花びらで、
地面が薄いピンク色になっていた。
⸻
「きれいだね」
⸻
「……そうだな」
⸻
少しだけ素直に答える。
⸻
その時。
⸻
風が少し強く吹く。
⸻
ぶわっ。
⸻
たくさんの花びらが舞い上がる。
⸻
「わぁ!」
⸻
茉白が思わず目を細める。
⸻
髪にも、
制服にも、
花びらが乗る。
⸻
海人は少し近づく。
⸻
「動くな」
⸻
「え?」
⸻
茉白が止まる。
⸻
海人は何も言わず、
そっと肩に落ちた花びらを取る。
⸻
「……はい」
⸻
小さな花びらを見せる。
⸻
「あ、ありがとう」
⸻
少し照れながら笑う茉白。
⸻
海人はすぐに目を逸らす。
⸻
「いっぱい付いてた」
⸻
「そうだった?」
⸻
自分の髪を触る。
⸻
「まだ付いてる?」
⸻
「……」
⸻
海人は少しだけ見る。
⸻
「一本」
⸻
「どこ?」
⸻
「そこじゃねぇ」
⸻
茉白が何度触っても見つからない。
⸻
「分かんない」
⸻
困ったように笑う。
⸻
「……しょうがねぇな」
⸻
海人はもう一歩近づく。
⸻
そっと髪に手を伸ばす。
⸻
指先で、
一枚だけ花びらをつまむ。
⸻
「取れた」
⸻
「えへへ、ありがとう」
⸻
その笑顔を見て、
海人は一瞬だけ固まる。
⸻
(……近い)
⸻
少しだけ鼓動が速くなる。
⸻
「海くん?」
⸻
「……なんでもねぇ」
⸻
また目を逸らす。
⸻
その時。
⸻
「海人ー!」
⸻
友達に呼ばれる。
⸻
「サッカーやろうぜ!」
⸻
「……おう」
⸻
返事をする。
⸻
でも、
すぐには動かない。
⸻
「行ってきなよ」
⸻
茉白が笑う。
⸻
「またあとでね」
⸻
「ああ」
⸻
海人は友達の方へ走っていく。
⸻
茉白はその背中を見送る。
⸻
(やっぱり)
⸻
自然と笑顔になる。
⸻
風が吹く。
⸻
桜の花びらが、
二人の間をゆっくりと舞っていた。
⸻
春はまだ始まったばかり。
⸻
二人の時間も、
桜のように少しずつ色づき始めていた。




