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お遊戯会の練習




秋も深まってきた頃。


保育園では、お遊戯会の練習が始まっていた。


教室の中には音楽が流れていて、先生たちも忙しそうに動いている。


「海人くん!そこ走らない!」


「えー!」


いつもの声。


茉白は少し離れた場所で、それを見ていた。


(また怒られてる)


最近、海人を見る回数が増えた気がする。


別に見ようとしてるわけじゃない。


でも、海人は目立つ。


笑う声も大きいし、動きも大きい。


だから自然と視界に入る。



その日の練習中。


先生が子どもたちを並ばせていた。


「はい、次は二人組になってー」


「えー、だれとー?」


ざわざわする教室。


茉白は少し困ったように周りを見る。


その時。


「じゃあ、おれ茉白でいい」


海人が先に言った。


あまりにも自然に。


茉白は一瞬固まる。


「……え」


海人は特に気にした様子もなく、隣に立つ。


先生も「はい、じゃあ二人ねー」と普通に進めていく。



茉白は少しだけ海人を見る。


今まで、“あいつ”とか、“おまえ”とか。


ちゃんと名前を呼ばれたこと、あまりなかった。


しかも——


“茉白”。


自然に。


当たり前みたいに。


その響きが、なんだか耳に残る。


「なに」


海人が気づいて振り返る。


「……なんでもない」


茉白は少しだけ目を逸らす。


海人は不思議そうにしながらも、「ふーん」としか言わない。



練習が始まる。


並んで歩いたり、音楽に合わせて動いたり。


海人は落ち着きがなくて、何回も先生に注意されていた。


「海人くん!違う違う!」


「むずいってこれ!」


「ちゃんとして!」


周りが笑う。


茉白も、つい少し笑ってしまう。


すると海人が気づく。


「今笑っただろ」


「笑ってない」


「うそつけ」


「ほんと」


でも口元が少し緩んでる。


海人はそれを見て、


「絶対笑った」


と楽しそうに言う。



その帰り。


教室で荷物をまとめながら、茉白はぼんやり考えていた。


(海人……)


名前を呼ばれた時の感じ。


なんだか、少しだけ嬉しかった。


理由はまだ、うまくわからない。



一方、海人も。


靴を履きながら、なんとなく思い出していた。


練習中、茉白が笑った顔。


普段は落ち着いてるのに、たまに柔らかく笑う。


それを見ると、


なんかちょっと、嬉しい。



まだ小さな感情。


でも、


“名前を呼ぶ”って、


子どもたちにとっては思ってるよりずっと特別だった。

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