また同じ帰り道
少しあたたかい風。
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「海くん」
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「なに」
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「今日、またうち来る?」
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当たり前みたいに言う。
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海人は一瞬だけ間を置いて、
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「……行く」
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前より自然。
でも少しだけ、意識は残ってる。
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■宿題の時間
リビング。
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「ここ違う」
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「え、どこ」
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「この計算」
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「……あ」
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ノートを並べて、
並んで座る。
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距離が近い。
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でも前より、
少し慣れてる。
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「海くん、こういうの得意だよね」
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「普通だろ」
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「普通じゃないよ」
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さらっと言う。
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(……なんなんだよ)
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ちょっとだけ照れる。
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ペンの音。
ページをめくる音。
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静かで、
落ち着く時間。
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(……このままでいい)
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ふと思う。
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■夕方、少し変わる空気
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「もうこんな時間」
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茉白が時計を見る。
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外は少しオレンジ色。
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(帰るか)
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海人が立ち上がろうとしたとき——
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「海人くん」
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キッチンから声。
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母。
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「夕飯、食べてく?」
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一瞬、止まる。
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(……え)
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想定外。
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「いえ、いいです」
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反射で断る。
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(迷惑だろ)
(親いるし)
(なんか気まずいし)
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いろいろよぎる。
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そのとき——
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「え」
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茉白の声。
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「海くんも食べていって!」
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まっすぐ。
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迷いなし。
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海人、固まる。
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(……は?)
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なんでそんな普通に言うんだよ。
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(……断れねぇだろ)
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少しだけ、
胸がざわつく。
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嬉しいのか、
困ってるのか、
分からない。
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「……」
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一瞬、顔を逸らす。
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「……チッ」
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小さく舌打ち。
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「……食う」
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ぶっきらぼう。
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でも、
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完全に負けてる。
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「ほんと?」
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茉白、少しだけ嬉しそう。
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「……うるせぇ」
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でも、
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その顔見て、
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(……まあいいか)
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少しだけ、
力が抜ける。
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■夕飯前の空気
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キッチンからいい匂い。
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父も帰ってきている。
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「お、海人くん」
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「また来てくれたか」
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「……おじゃましてます」
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少しだけ姿勢を正す。
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「遠慮すんなよ」
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父が笑う。
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(……なんなんだよこの家)
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落ち着かないはずなのに、
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どこか居心地がいい。
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ちらっと見る。
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茉白。
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普通にそこにいる。
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(……こいつがいるからか)
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自分でも気づかないまま、
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少しずつ、
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“当たり前の場所”になり始めていた。
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