バレンタイン
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二月。
教室の中は、朝から少しだけそわそわしていた。
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「今日、バレンタインだね!」
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「チョコもらった?」
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子どもたちが楽しそうに話している。
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海人は友達の話を聞きながら首をかしげた。
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「バレンタインって何?」
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「好きな人にチョコあげる日!」
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「あと、お世話になってる人にもあげるんだって!」
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「へぇ……」
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海人は何となく茉白の方を見る。
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茉白は友達と話していた。
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(好きな人……)
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意味はよく分からない。
でも、少しだけ気になった。
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昼休み。
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茉白はランドセルから小さな袋を取り出す。
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友達がのぞき込む。
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「それチョコ?」
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「うん」
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「手作り?」
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「お母さんと一緒に作ったの」
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友達は嬉しそうに笑う。
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「誰にあげるの?」
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茉白は少しだけ困ったように笑う。
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「えっと……」
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その時。
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海人が教室へ戻ってきた。
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茉白は袋をぎゅっと持ち直す。
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放課後。
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校門を出ると、
茉白が少しだけ立ち止まった。
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「海くん」
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「ん?」
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「これ」
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小さな袋を差し出す。
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海人は目を丸くした。
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「俺?」
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「うん」
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「いつもありがとう」
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それだけ言って、
少し照れたように笑う。
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海人は袋を受け取る。
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「……ありがと」
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照れくさくて、
それ以上言葉が出ない。
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二人は並んで歩き始める。
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「おいしそう」
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「味は保証しないよ?」
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「食べる」
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海人は大事そうに袋を持った。
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帰宅してから、
海人は袋を開ける。
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中には、
少し形のいびつなハートのチョコが一つ。
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「……」
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思わず笑う。
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(茉白が作ったんだ)
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一口食べる。
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「うまい」
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誰に自慢するわけでもない。
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でも、
その日のチョコは、
今まで食べたどんなお菓子よりも特別な味がした。
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窓の外では、
まだ冷たい風が吹いている。
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それでも海人の心は、
少しだけ春に近づいていた。




