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水遊び




夏の終わり頃。


空はまだ明るいのに、風だけ少し涼しくなっていた。


その日、保育園では水遊びをしていた。


子どもたちは大はしゃぎで、水鉄砲や小さなバケツを持って走り回っている。


「海人ー!くらえ!」


「うお!?つめたっ!」


びしゃっと水をかけられて、海人が笑う。


すぐにやり返して、また先生に怒られる。


「走らないって言ってるでしょ!」


「はーい!」


全然止まらない。



一方、茉白は少し離れた場所で座っていた。


小さなジョウロで水を流しながら遊んでいる。


騒ぐのは嫌いじゃない。


でも、ずっと走り回るほどでもない。


そんな時。


「ましろ!」


急に名前を呼ばれる。


振り向いた瞬間——


ばしゃっ!!


「……っ!?」


顔の横に水が飛んできた。


海人だった。


本人も「あ」って顔をしている。


どうやら狙ったわけじゃなく、友達に向けた水が逸れたらしい。


でも茉白の髪や服には、しっかり水がかかっていた。


数秒の沈黙。


海人がちょっと焦った顔になる。


「……わり」


珍しく、ちゃんと謝る。


茉白は濡れた前髪を押さえながら、じっと海人を見る。


「さいあく」


「だから、ごめんって」


「冷たい」


「水だからな」


「そういうことじゃない」


海人は「えぇ……」って困った顔をする。


そのやり取りを見ていた周りの子たちが笑い始める。


「海人、怒られてるー!」


「うるせー!」


海人は少し恥ずかしそうにする。



茉白は立ち上がって、ぱっぱっと服の水を払う。


その時。


海人が急にタオルを差し出した。


「これ使えよ」


「……海人のじゃん」


「いーから」


茉白は少し迷う。


でも、髪から水が垂れてきていた。


「……ありがと」


小さな声。


海人は「おう」とだけ返す。


それだけ。


なのに——


なんだか少しだけ、空気が変わった気がした。



その後。


また友達に呼ばれて、海人は走っていく。


でも今日は、一回だけ振り返る。


茉白は借りたタオルで髪を拭いていた。


綺麗な髪が、夏の光できらきらして見える。


海人は少しだけ目を細める。


(……ほんと、髪すげーな)


ぼんやり、そんなことを思う。



そして茉白も。


タオルを握りながら、走っていく海人を見る。


うるさくて。


子どもっぽくて。


落ち着きなくて。


でも——


前より、嫌じゃない。



少しずつ。


二人の距離は、“ただ同じ教室にいるだけ”から変わり始めていた。

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