消しゴム
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二学期。
国語の授業。
教室は静かで、鉛筆の音だけが聞こえていた。
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「では、この漢字を書いてみましょう」
先生の声に、みんながノートへ向かう。
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茉白も鉛筆を動かす。
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「あっ」
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少しだけ書き間違えた。
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「……」
消しゴムを取ろうとする。
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でも。
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「あれ?」
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机の中。
筆箱。
ランドセル。
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どこにもない。
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(忘れた……)
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困っていると、
隣の席から小さく声がした。
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「ほら」
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海人だった。
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自分の消しゴムを、
机の真ん中へそっと置く。
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「使え」
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「え?」
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「俺、あとで消すから」
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茉白は少しだけ目を丸くした。
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「でも」
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「いいから」
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ぶっきらぼう。
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でも、
その声はどこか優しかった。
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「……ありがとう」
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茉白は小さく笑う。
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海人は何も言わず、
前を向いた。
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耳だけ少し赤い。
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授業が終わる。
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「海くん」
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「ん?」
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消しゴムを両手で返す。
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「ありがとう」
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「忘れんなよ」
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「うん」
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二人とも笑う。
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その様子を、
近くの席の友達が見ていた。
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「海人ってさ」
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「ん?」
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「茉白には優しいよね」
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「は?」
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海人が固まる。
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「そんなことねぇし!」
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思わず大きな声になる。
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教室中が笑い出す。
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「また照れてる!」
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「違うって!」
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海人は慌てる。
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その隣で、
茉白は少しだけ笑っていた。
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(やっぱり)
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(海くん、優しい)
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本人は気づいていない。
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でも、
その何気ない優しさが、
茉白には何より嬉しかった。
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放課後。
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帰り道。
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「今日ね」
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茉白が笑う。
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「消しゴム、助かった」
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「別に」
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海人は照れくさそうに笑う。
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「今度はちゃんと持ってくる」
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「それならいい」
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二人は並んで歩きながら笑い合う。
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たった一つの消しゴム。
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それだけの出来事なのに、
二人の距離は、
また少しだけ近づいていた。




