やっぱり隣がいい
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朝。
教室には子どもたちの元気な声が響いていた。
海人はランドセルを置きながら、ちらりと茉白の席を見る。
茉白は友達と話していた。
笑っている。
その笑顔を見て、少しだけ安心する。
でも。
(……話しかけづらい)
ここ数日、自分から距離を置いてしまったせいで、いつものように声をかけるタイミングが分からなかった。
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休み時間。
友達に誘われて遊びに行こうとした海人だったが、足が止まる。
視線の先には、本を読んでいる茉白。
(……このままじゃダメだよな)
海人は小さく息を吸った。
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「茉白」
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名前を呼ぶ。
茉白が顔を上げる。
少しだけ驚いたような表情。
「海くん?」
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「その……」
言葉が出てこない。
何を言えばいいのか分からない。
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「今日さ」
「うん」
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「外、行かね?」
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たったそれだけ。
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でも茉白は、ふっと笑った。
「うん、行く」
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その笑顔を見た瞬間、海人の胸のつかえが少しだけ軽くなる。
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校庭。
二人は並んで歩く。
何を話すわけでもない。
でも、不思議と気まずくはなかった。
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「最近さ」
茉白がぽつりと話し始める。
「海くん、忙しかった?」
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海人は一瞬止まる。
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「……違う」
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「え?」
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「なんか……」
頭をかく。
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「からかわれたら嫌かなって」
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小さな声だった。
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茉白は少しだけ目を丸くする。
そして、優しく笑った。
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「わたしは平気だよ」
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「え?」
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「海くんと話せなくなる方が嫌」
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海人は思わず立ち止まる。
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その一言が、
胸にまっすぐ届いた。
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「……そっか」
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自然と笑みがこぼれる。
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「ごめん」
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「ううん」
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茉白は首を横に振る。
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「また一緒に帰ろ?」
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「うん」
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海人は力強くうなずいた。
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その日の帰り道。
久しぶりに二人は並んで歩いた。
夕日が二人の影を長く伸ばしていく。
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「やっぱり」
海人が小さくつぶやく。
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「ん?」
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「隣が落ち着く」
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言った瞬間、海人は「しまった」と思った。
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茉白は少しだけ照れながら笑う。
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「……わたしも」
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二人は顔を見合わせる。
そして、同時に笑った。
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少しだけ遠回りをしながら帰る帰り道。
好きだからこそ生まれたすれ違いは、
「また一緒に帰ろう」
その一言で、静かにほどけていった。




