新しい席
⸻
新学期が始まって数日。
少しずつ新しい教室にも慣れてきた。
⸻
朝。
先生が教卓の前に立つ。
「今日は席替えをします」
⸻
「やったー!」
「どこになるかな!」
教室が一気ににぎやかになる。
⸻
海人も少しだけ前のめりになる。
(どこでもいいけど……)
頭の片隅では、同じことを考えていた。
(茉白の近くだったらいいな)
⸻
くじを引く。
自分の番号を見る。
「ここか」
席へ向かう。
⸻
少し遅れて茉白も席を移動する。
「あっ」
思わず二人とも声が重なった。
⸻
海人の席は窓側。
茉白は、その一つ前の席だった。
⸻
「近いね」
茉白が振り返って笑う。
⸻
「ああ」
海人も少し照れながら笑う。
⸻
授業が始まる。
先生が黒板に文字を書く。
⸻
「教科書を開いてください」
⸻
茉白が教科書を開こうとして、
「あれ?」
ランドセルの中を探す。
⸻
「どうした?」
海人が小声で聞く。
⸻
「国語の教科書……家に忘れちゃった」
⸻
「マジか」
⸻
海人は少し考えてから、
自分の教科書を机の真ん中へ寄せた。
⸻
「一緒に見ればいい」
⸻
茉白は少し驚く。
⸻
「いいの?」
⸻
「うん」
⸻
先生に聞こえないように、
二人で一冊の教科書を見る。
⸻
肩が少しだけ近い。
⸻
ページをめくるたび、
腕が少し触れそうになる。
⸻
「……」
⸻
「……」
⸻
どちらも少しだけ意識してしまう。
⸻
「ありがとう」
茉白が小さく言う。
⸻
「別に」
海人は前を向いたまま答える。
でも、
耳は少しだけ赤かった。
⸻
授業が終わる。
⸻
「海くん」
⸻
「ん?」
⸻
「助かった」
⸻
「次は忘れんなよ」
⸻
「うん」
⸻
茉白は笑う。
海人もつられて笑った。
⸻
その様子を見ていた友達が、
にやっと笑う。
⸻
「二人って仲いいよな」
⸻
「え?」
⸻
海人も茉白も同時に固まる。
⸻
「べ、別に普通!」
⸻
二人の声がぴったり重なる。
⸻
教室中に笑い声が広がった。
⸻
海人と茉白は顔を見合わせる。
⸻
少し恥ずかしくなって、
また笑ってしまった。
⸻
新しい席。
⸻
去年より少しだけ近くなった距離は、
二人の毎日を、
また少しだけ変え始めていた。




