なくしちゃった
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放課後。
掃除が終わり、子どもたちが帰る準備をしていた。
茉白はいつものように机の中へ手を入れる。
「あれ……?」
もう一度探す。
「……ない」
胸がドキッとした。
ポケットも見る。
ランドセルの中も見る。
でも、ない。
「うそ……」
昨日まで大事にしまっていたシロツメクサの指輪。
どこにも見当たらなかった。
「どうしよう……」
顔が青くなる。
教室の床を見回し、机の下をのぞく。
それでも見つからない。
その様子に海人が気づいた。
「茉白?」
振り向いた茉白は今にも泣きそうな顔だった。
「海くん……」
「どうした?」
「指輪が……」
小さな声で言う。
「あの指輪……なくしちゃった……」
海人の表情が変わる。
「いつから?」
「分からない……」
「最後に見たのは?」
「休み時間……」
海人はすぐに教室を見回した。
「探そう」
一言だけ。
迷いはなかった。
二人は教室中を探し始める。
机の下。
ロッカーの隙間。
掃除道具入れの前。
体育館へ続く廊下。
「ない……」
茉白の声が震える。
「ごめん……」
「謝るな」
海人はすぐに答えた。
「絶対ある」
その声は、今までになく真剣だった。
時間だけが過ぎていく。
夕日が教室を赤く染め始めた頃。
「あっ!」
海人がしゃがみ込む。
机と壁の間。
小さな隙間に、少し形の崩れたシロツメクサの指輪が挟まっていた。
「……あった」
海人はそっと取り上げる。
少しだけ花びらは潰れていた。
でも、ちゃんと残っていた。
「茉白」
名前を呼ぶ。
振り向いた茉白は、指輪を見た瞬間に目を大きくした。
「……あった」
その一言と同時に、安心したように息をつく。
「よかった……」
張りつめていた気持ちがほどけ、思わず海人の方へ駆け寄る。
「海くん!」
勢いのまま、海人の腕をぎゅっとつかむ。
「ありがとう……!」
海人は少し驚く。
二人の距離が、今までで一番近い。
お互いに顔を上げると、すぐ目が合った。
「……」
ほんの数秒。
どちらも動けない。
近すぎる距離に気づき、茉白は慌てて手を離した。
「ご、ごめん!」
顔を真っ赤にする。
海人も耳まで赤くなりながら笑った。
「……見つかってよかったな」
「うん」
茉白は壊れかけた指輪を大事そうに両手で包む。
「もう、なくさない」
海人は小さくうなずいた。
「今度はちゃんとしまっとけ」
「うん」
夕焼けの教室。
二人は並んで帰り支度を始める。
なくしたと思っていた大切なものは、ちゃんと戻ってきた。
そしてその日、二人の距離も、ほんの少しだけ近づいていた。




