二人の時間
家に上がってからしばらくすると、茉白のお母さんが買い物に出かけ、お父さんも庭の手入れに出ていった。
リビングには、海人と茉白の二人だけ。
さっきまで少しにぎやかだった部屋が、急に静かになる。
「……」
「……」
どちらも何を話せばいいのか分からない。
時計の音だけが小さく聞こえていた。
海人は照れくさそうに頭をかく。
「なんか……静かだな」
茉白は小さく笑う。
「うん」
少しだけ緊張している。
学校では普通に話せるのに、家だとなんだか違う。
「ジュース飲む?」
「お、おう」
茉白は冷蔵庫からジュースを持ってくる。
コップを二つ並べる。
「はい」
「ありがと」
コップを受け取ると、二人は少しだけ笑った。
その笑顔だけで、さっきまでの緊張が少し和らぐ。
「海くん、学校でもそんなに静かだった?」
「いや、こんなじゃねぇよ」
「だよね」
思わず二人とも笑ってしまう。
学校とは違う、ゆっくり流れる時間。
それが少し心地よかった。
その時だった。
テーブルの下に置かれていた箱に、海人の目が止まる。
「これ、何?」
「あ、それ?」
茉白は箱を持ち上げる。
「アルバム」
「見てもいい?」
「うん、いいよ」
アルバムを開く。
最初のページには、小さな頃の茉白の写真。
「わっ、小さい」
海人が笑う。
「笑わないでよ」
茉白は少し恥ずかしそうに頬をふくらませる。
ページをめくる。
保育園の遠足。
運動会。
七夕。
写真が次々と並んでいる。
「あ」
海人の手が止まる。
そこには、保育園の頃の集合写真。
海人も写っていた。
「これ……覚えてる」
海人が懐かしそうに笑う。
茉白も写真を見る。
「本当だ」
二人で並んで写っている。
まだ恋なんて知らなかった頃。
毎日一緒に遊んでいた頃。
「なんか懐かしいね」
「うん」
しばらく二人で写真を眺める。
どちらも自然と笑顔になっていた。
夕方になる。
玄関まで見送る茉白。
海人は靴を履いて振り返る。
「今日は楽しかった」
「わたしも」
少しだけ沈黙が流れる。
海人は少し照れながら聞いた。
「……また来てもいい?」
茉白は少し驚いたあと、すぐに優しく笑う。
「うん」
「いつでも来ていいよ」
その言葉を聞いた海人は、ほっとしたように笑う。
「じゃあ、また来る」
「待ってる」
海人は手を振る。
「またな、茉白」
「またね、海くん」
海人が帰っていく姿を、茉白は見えなくなるまで見送っていた。
家の中には、さっきまで海人がいた温かい空気が、まだ少しだけ残っていた。




