寄り道
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放課後。
雨は止んだけど、道はまだ少し濡れている。
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「……ねえ」
茉白が少しだけ歩幅を合わせてくる。
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「なに」
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「今日さ」
少しだけ間。
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「うち、来る?」
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海人、止まる。
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「……は?」
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「べつに、嫌ならいいけど」
そっぽ向く茉白。
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(いや嫌じゃねぇけど)
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むしろ——
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(いいのかよ)
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「……行く」
短く答える。
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茉白は小さくうなずく。
「じゃあ来て」
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■茉白の家
玄関の前。
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「ここ」
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「……へぇ」
少しだけ緊張してる海人。
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ガチャ、とドアが開く。
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「ただいまー」
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「おかえり」
キッチンから声。
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茉白が振り返る。
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「お母さん」
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「海くん、家に上がってもいい?」
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一瞬の間。
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母は少しだけ驚いた顔をして、
すぐに柔らかく笑う。
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「いいわよ」
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「いらっしゃい、海人くん」
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「……お、おじゃまします」
ぎこちなく頭を下げる。
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靴をそろえて上がる。
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(なんか緊張する)
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リビングへ。
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「適当に座ってていいよ」
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「おう」
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少しだけ距離をあけて座る。
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(……家だ)
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学校とは違う空気。
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なんか落ち着かない。
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そのとき。
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「海人くん」
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後ろから小さな声。
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振り向くと、茉白の母。
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「ちょっといい?」
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茉白は気づいてない。
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キッチンの方へ、少しだけ呼ばれる。
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「……はい」
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小声で。
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「さっきの帰り道、見てたの」
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「え」
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「茉白のこと、守ってくれてたでしょ」
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一瞬、止まる。
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「……別に」
目を逸らす。
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母は、優しく笑う。
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「ありがとう」
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その一言。
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ドクン、と鳴る。
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「……いや」
小さく呟く。
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照れて、そっぽを向く。
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「……当たり前だし」
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声が少しだけ小さい。
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母は何も言わず、少しだけ嬉しそうにする。
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そのとき。
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「なに話してたのー?」
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茉白の声。
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ひょこっと顔を出す。
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海人、少しだけ焦る。
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母はさらっと言う。
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「内緒」
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「えーなにそれ」
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「内緒は内緒」
くすっと笑う。
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「気になるんだけど」
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「気にしなくていいの」
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茉白は少しだけ不満そうにしながら、
海人の方を見る。
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「……なに?」
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「別に」
海人もそっぽ向く。
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少しだけ、
変な空気。
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でも、
どこかやわらかい。
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そのとき——
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「お、いらっしゃい」
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低くて落ち着いた声。
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振り向くと、茉白の父。
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「海人くん、だよね」
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「……はい」
少し姿勢を正す。
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「いらっしゃい」
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「おじゃまします」
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父は軽くうなずく。
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その様子を、
茉白は少しだけ見ている。
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(……なんか)
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海人が、
自分の家にいる。
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それだけなのに、
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(変な感じ)
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でも。
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嫌じゃない。
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むしろ——
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少しだけ、
嬉しい。
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