夕立
⸻
夏休み。
約束していた日から、数日後。
⸻
朝から強い日差しが照りつけていた。
⸻
「今日も暑いね」
⸻
茉白が汗をぬぐう。
⸻
「夏だもんな!」
⸻
海人は元気よく笑った。
⸻
二人は公園で遊んでいた。
⸻
セミ取りをしたり、
鬼ごっこをしたり、
ベンチで休んだり。
⸻
笑い声が絶えない。
⸻
その時。
⸻
ゴロゴロ……
⸻
遠くで雷が鳴った。
⸻
「あれ?」
⸻
茉白が空を見上げる。
⸻
さっきまで青かった空に、
黒い雲が広がり始めていた。
⸻
「降るかな」
⸻
海人がつぶやく。
⸻
ポツ……
⸻
一滴。
⸻
ポツ、ポツ……
⸻
「雨!」
⸻
「あっ!」
⸻
次の瞬間。
⸻
ザーッ!!
⸻
大粒の雨が降り始めた。
⸻
「走れ!」
⸻
海人が言う。
⸻
「うん!」
⸻
二人は公園の東屋へ向かって走る。
⸻
「はぁ……」
⸻
屋根の下へ駆け込む。
⸻
びしょびしょではない。
⸻
でも、
肩や髪には小さな雨粒がついていた。
⸻
「急だったね」
⸻
茉白が笑う。
⸻
「びっくりした」
⸻
海人も笑い返す。
⸻
雨はどんどん強くなる。
⸻
ザーッ……
⸻
東屋には、
二人だけ。
⸻
雨音だけが静かに響いていた。
⸻
しばらく無言。
⸻
海人は外を見る。
⸻
(また雨か)
⸻
ふと、
学校の帰り道を思い出した。
⸻
雨の日。
⸻
茉白を車道側から引いたこと。
⸻
「危ねぇ」
⸻
あの日のことが頭に浮かぶ。
⸻
その時。
⸻
茉白も同じことを思い出していた。
⸻
(あの日も雨だった)
⸻
海くんが助けてくれた。
⸻
そして、
夏祭り。
⸻
人混みの中で、
手をつないだこと。
⸻
思い出した瞬間、
少しだけ頬が熱くなる。
⸻
「暑い?」
⸻
海人が不思議そうに聞く。
⸻
「え?」
⸻
「顔、赤い」
⸻
「ち、違う!」
⸻
茉白は慌てて首を振る。
⸻
「暑いだけ!」
⸻
海人は少し笑う。
⸻
「俺も暑い」
⸻
二人とも照れ笑い。
⸻
理由は、
お互い言わない。
⸻
でも、
同じことを思い出していた。
⸻
やがて雨が弱くなる。
⸻
「止みそうだ」
⸻
海人が空を見上げる。
⸻
雲の切れ間から、
青空が少しだけ見えた。
⸻
「帰ろうか」
⸻
「うん」
⸻
東屋を出る。
⸻
雨上がりの公園は、
土の匂いが広がっていた。
⸻
並んで歩く。
⸻
肩が少しだけ近い。
⸻
でも、
今日はどちらも離れなかった。
⸻
夏祭りの日とは違う。
⸻
手はつながない。
⸻
それでも。
⸻
隣にいるだけで、
安心できた。
⸻
夏の夕立は、
すぐに過ぎ去っていく。
⸻
けれど、
あの日手をつないだ思い出は、
二人の心の中で、
少しずつ特別なものになっていた。
⸻




