昨日のこと
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夏休み。
夏祭りの翌朝。
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窓から聞こえる蝉の声で、
海人は目を覚ました。
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「ふぁ……」
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ぼんやりと天井を見る。
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その時。
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(……あ)
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昨日の夏祭り。
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人混み。
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「こっち!」
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無意識に伸ばした手。
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茉白の手を握った感覚が、
ふっとよみがえる。
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「……っ!」
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海人は慌てて布団を頭までかぶった。
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(何やってんだよ、俺……)
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顔が熱い。
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守るためだった。
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それは分かっている。
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でも。
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(手、つないだんだよな)
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思い出すだけで、
心臓が落ち着かない。
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一方、その頃。
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茉白も自分の部屋にいた。
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机の上には、
昨日のお祭りで買った小さなお面が置いてある。
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それを見るだけで、
昨日のことを思い出す。
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(海くん……)
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ぎゅっと握られた手。
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「こっち!」
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あの時の海人は、
少し必死だった。
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(助けてくれたんだ)
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自分の右手を見る。
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もちろん、
もう温もりは残っていない。
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でも。
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(なんか、まだ覚えてる)
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少し照れながら、
手を胸の前で握る。
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その日の夕方。
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茉白はお母さんに頼まれて、
近くのお店へ買い物に出かけた。
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帰り道。
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「あ」
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向こうから歩いてくる人がいた。
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海人。
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「海くん」
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「……茉白」
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二人とも立ち止まる。
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昨日までなら、
すぐに笑えた。
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でも今日は違う。
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(昨日のこと思い出した)
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(どうしよう)
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沈黙。
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少しだけ風が吹く。
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「……買い物?」
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ようやく海人が口を開く。
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「うん」
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「海くんは?」
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「アイス買いに」
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「そっか」
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また沈黙。
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話したいことはある。
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でも、
何を話せばいいか分からない。
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「じゃあ……」
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「うん」
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すれ違う。
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その時。
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二人の手が、
ほんの少しだけ近づく。
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昨日なら、
つないでいた距離。
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今日は、
触れない。
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でも。
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二人とも、
少しだけその距離を意識していた。
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数歩歩いてから、
海人が振り返る。
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茉白も、
同じタイミングで振り返っていた。
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目が合う。
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照れくさそうに笑う。
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「またね」
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「またね」
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短い言葉。
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それだけで、
胸の奥が少しだけ温かくなった。
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昨日つないだ手。
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その温もりは消えても、
二人の心には、
まだ静かに残り続けていた。
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