表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
53/150

昨日のこと


夏休み。


夏祭りの翌朝。



窓から聞こえる蝉の声で、


海人は目を覚ました。



「ふぁ……」



ぼんやりと天井を見る。



その時。



(……あ)



昨日の夏祭り。



人混み。



「こっち!」



無意識に伸ばした手。



茉白の手を握った感覚が、


ふっとよみがえる。



「……っ!」



海人は慌てて布団を頭までかぶった。



(何やってんだよ、俺……)



顔が熱い。



守るためだった。



それは分かっている。



でも。



(手、つないだんだよな)



思い出すだけで、


心臓が落ち着かない。



一方、その頃。



茉白も自分の部屋にいた。



机の上には、


昨日のお祭りで買った小さなお面が置いてある。



それを見るだけで、


昨日のことを思い出す。



(海くん……)



ぎゅっと握られた手。



「こっち!」



あの時の海人は、


少し必死だった。



(助けてくれたんだ)



自分の右手を見る。



もちろん、


もう温もりは残っていない。



でも。



(なんか、まだ覚えてる)



少し照れながら、


手を胸の前で握る。



その日の夕方。



茉白はお母さんに頼まれて、


近くのお店へ買い物に出かけた。



帰り道。



「あ」



向こうから歩いてくる人がいた。



海人。



「海くん」



「……茉白」



二人とも立ち止まる。



昨日までなら、


すぐに笑えた。



でも今日は違う。



(昨日のこと思い出した)



(どうしよう)



沈黙。



少しだけ風が吹く。



「……買い物?」



ようやく海人が口を開く。



「うん」



「海くんは?」



「アイス買いに」



「そっか」



また沈黙。



話したいことはある。



でも、


何を話せばいいか分からない。



「じゃあ……」



「うん」



すれ違う。



その時。



二人の手が、


ほんの少しだけ近づく。



昨日なら、


つないでいた距離。



今日は、


触れない。



でも。



二人とも、


少しだけその距離を意識していた。



数歩歩いてから、


海人が振り返る。



茉白も、


同じタイミングで振り返っていた。



目が合う。



照れくさそうに笑う。



「またね」



「またね」



短い言葉。



それだけで、


胸の奥が少しだけ温かくなった。



昨日つないだ手。



その温もりは消えても、


二人の心には、


まだ静かに残り続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ