はぐれないように
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夏休み。
夕暮れが近づき、町はお祭りのにぎわいに包まれていた。
色とりどりの屋台。
提灯の明かり。
楽しそうな笑い声があちこちから聞こえてくる。
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「わあ……」
茉白は目を輝かせながら辺りを見回した。
浴衣姿の人たちが行き交い、普段とは違う景色に胸が弾む。
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その時。
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「茉白?」
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聞き慣れた声。
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振り向くと、海人が立っていた。
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「海くん!」
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思わず笑顔になる。
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「茉白も来てたんだ」
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「うん!」
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偶然の再会。
それだけで二人とも嬉しそうに笑った。
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「少しだけ一緒に回る?」
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「うん!」
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二人は屋台を見ながら歩き始める。
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「あ、金魚すくい!」
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「射的もあるぞ!」
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子どもらしく目を輝かせる二人。
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笑って、
話して、
立ち止まって。
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楽しい時間はあっという間だった。
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しかし。
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日が暮れるにつれて、
お祭りはさらに人でいっぱいになっていく。
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「すみませーん!」
「前、通ります!」
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人の流れが急に動く。
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「あっ……!」
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茉白が小さく声を上げた。
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人に押され、
海人との距離が一気に開いてしまう。
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「海くん……!」
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その瞬間。
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「茉白!」
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海人が振り返る。
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茉白が人混みに飲まれそうになっている。
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考えるより先だった。
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海人は人の間をすり抜け、
茉白へ駆け寄る。
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そして――
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ぎゅっ。
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茉白の手をつかんだ。
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「こっち!」
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そのまま手を引き、
人の少ない場所まで走る。
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ようやく足を止める。
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「はぁ……」
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二人とも少し息を切らしていた。
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「大丈夫?」
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海人が心配そうに聞く。
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「う、うん……」
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茉白は小さく頷く。
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その時だった。
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二人とも同時に気づく。
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「……」
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まだ、
手をつないだままだった。
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海人は一気に顔が赤くなる。
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「ご、ごめん!」
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慌てて手を離す。
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「はぐれそうだったから、その……」
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しどろもどろになる。
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茉白は少しだけ自分の手を見る。
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さっきまで海人が握っていた手。
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まだ少しだけ温かい気がした。
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「……ありがとう」
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小さく笑う。
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「助けてくれて」
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海人は照れくさそうに笑った。
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「当たり前だろ」
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その一言が、
茉白の胸を優しく温める。
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しばらく沈黙が続く。
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でも、
気まずくはなかった。
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「もう、人が多いところは気をつけろよ」
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「うん」
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茉白は素直に頷く。
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そして、
少しだけ照れながら言った。
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「海くんがいてくれて、よかった」
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海人は一瞬目を丸くして、
すぐに笑った。
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「俺も」
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短い返事。
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でも、
その言葉だけで十分だった。
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夏祭りの明かりが、
二人を優しく照らしている。
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この日。
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海人と茉白は、
初めて手をつないだ。
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それは恋人だからではなく、
大切な人を守りたいという、
海人のまっすぐな想いから始まった出来事だった。
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そしてその温もりは、
二人の心に、
夏の思い出として静かに残り続けるのだった。




