おめでとう
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7月。
朝から夏の日差しがまぶしい。
蝉の鳴き声も少しずつ増えてきた。
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教室へ入ると、
いつもより少しだけ賑やかだった。
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「茉白ちゃん!」
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同じクラスの女の子たちが集まる。
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「お誕生日おめでとう!」
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「おめでとー!」
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茉白は少し驚いて、
それから嬉しそうに笑った。
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「ありがとう」
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その様子を、
少し離れた席から海人が見ていた。
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(……今日だった)
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保育園の頃。
茉白が話してくれた。
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『わたし、7月が誕生日なんだ』
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海人はちゃんと覚えていた。
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(言うか……?)
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「おめでとう」
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たった一言。
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なのに、
なかなか言えない。
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休み時間。
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何度も近くまで行く。
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でも、
友達がいる。
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「茉白ちゃん!」
「これ見て!」
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話しかけるタイミングがない。
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(また今度でいいか)
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そう思って離れる。
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でも、
また気になって戻ってしまう。
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昼休み。
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校庭。
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茉白は木陰で座っていた。
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「海くん」
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先に気づいたのは茉白だった。
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「どうしたの?」
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「いや……」
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海人は少し頭をかく。
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言葉が出てこない。
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「?」
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茉白は首をかしげる。
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海人は深呼吸を一つして、
少し照れながら言った。
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「……誕生日、おめでとう」
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ほんの一言。
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茉白は目を丸くする。
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「覚えててくれたの?」
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「当たり前だろ」
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少しぶっきらぼう。
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でも、
耳は赤かった。
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茉白はふわっと笑う。
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「ありがとう、海くん」
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その笑顔を見た瞬間、
海人も自然と笑っていた。
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「今年で七歳だね」
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「うん」
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「ちょっとだけ、お姉さんだ」
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茉白が少し得意そうに笑う。
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「すぐ追いつくし」
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海人も笑い返した。
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二人で笑う。
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短い時間。
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でも、
二人にとっては特別だった。
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放課後。
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茉白は帰り道、
何度も思い出していた。
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『覚えててくれたの?』
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『当たり前だろ』
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その言葉が、
胸の中で何度も繰り返される。
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(嬉しかったな)
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プレゼントはない。
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特別なこともない。
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でも、
海くんが覚えていてくれた。
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それだけで、
今年の誕生日は、
今までで一番あたたかい誕生日になった。
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一方、海人。
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(ちゃんと言えた)
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それだけなのに、
胸が少し軽くなる。
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茉白の笑顔を思い出して、
少し照れくさそうに笑った。
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夏空には、
白い入道雲がゆっくりと浮かんでいた。
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