近すぎる距離
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7月。
夏の日差しが教室に差し込む朝。
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一時間目。
先生が教室を見回す。
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「今日は生活科で植物の観察をします」
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「二人一組で観察ノートを書いてください」
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教室が少しざわつく。
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「ペアは先生が決めます」
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海人は少しだけ胸が高鳴る。
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(……まさかな)
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「海人くんと、茉白ちゃん」
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「はい」
「……はい」
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二人は少しだけ目を合わせる。
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「じゃあ、外へ行きましょう」
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校庭の花壇。
色とりどりの花が咲いている。
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「ここにしようか」
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茉白がしゃがむ。
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「おう」
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海人も隣にしゃがむ。
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思ったより距離が近い。
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肩が少し触れそうになる。
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(二人とも少しだけ体を離す。)
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「……」
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「……」
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沈黙。
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「何書く?」
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海人が先に口を開く。
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「葉っぱの形とか……かな」
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「じゃあ俺、書く」
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「うん」
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海人がノートを広げる。
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その時。
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「あっ」
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風が吹く。
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ノートのページがめくれてしまう。
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茉白がとっさに押さえる。
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海人も同じところへ手を伸ばす。
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ぴたっ。
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手と手が軽く触れた。
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「!」
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二人とも一瞬固まる。
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「ご、ごめん」
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海人が慌てて手を引く。
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「ううん」
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茉白も少しだけ照れたように笑う。
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胸がドキドキする。
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(なんでこんなに緊張するの)
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昨日までなら、
こんなこと何とも思わなかった。
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でも今は違う。
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好きだと気づいてしまったから。
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「海くん」
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「ん?」
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「字、きれいだね」
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何気なく言った一言。
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「え?」
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海人は少し照れる。
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「初めて言われた」
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「ほんと?」
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「うん」
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少しだけ笑い合う。
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さっきまでの緊張が、
少しだけほぐれた。
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観察が終わり、
教室へ戻る。
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友達が海人に声をかける。
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「海人、観察どうだった?」
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「……普通」
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ぶっきらぼうに答える。
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でも、
耳は少し赤い。
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一方、
茉白も友達に聞かれる。
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「茉白ちゃん、楽しかった?」
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少し考えてから、
ふわっと笑う。
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「……うん」
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短い返事。
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でもその笑顔は、
いつもより少しだけ優しかった。
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二人とも、
“近すぎる距離”に戸惑いながらも、
その時間をどこか大切に思い始めていた。
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