なんか、変
⸻
7月。
茉白が自分の気持ちに気づいた翌日。
⸻
朝。
教室には子どもたちの元気な声が響いていた。
「おはよう!」
「昨日さ!」
いつもと変わらない朝。
⸻
茉白はランドセルを置く。
(海くん……)
昨日の帰り道を思い出す。
「また明日ね」
その何気ない一言が、何度も頭に浮かぶ。
⸻
その時。
教室の扉が開いた。
⸻
「おはよー!」
海人だった。
⸻
茉白は思わず顔を上げる。
海人も自然と茉白を見る。
⸻
目が合う。
⸻
(おはようって言おう)
(おはようって言うだけなのに)
⸻
二人ともそう思う。
⸻
でも。
⸻
「あ……」
⸻
タイミングが重なる。
⸻
「……」
⸻
どちらも言葉が出ない。
⸻
海人は照れくさそうに頭をかき、
友達の方へ歩いていった。
⸻
茉白も小さく息をついて席に座る。
⸻
(なんで言えなかったんだろう)
⸻
休み時間。
⸻
海人は友達と話していた。
でも。
⸻
(茉白、何してるかな)
⸻
気になってしまう。
⸻
ちらっと見る。
⸻
茉白も友達と話していた。
⸻
その時。
茉白も何気なく海人を見る。
⸻
また目が合う。
⸻
「あ……」
⸻
二人ともすぐに目を逸らした。
⸻
「海人?」
友達が不思議そうに聞く。
⸻
「どうした?」
⸻
「なんでもねぇ!」
⸻
少し大きな声になってしまう。
⸻
一方。
⸻
「茉白ちゃん?」
⸻
「え?」
⸻
「顔、赤いよ?」
⸻
「えっ?」
⸻
慌てて両手でほっぺを触る。
⸻
「暑いだけ!」
⸻
そう言って笑う。
⸻
でも、
胸は少しだけドキドキしていた。
⸻
放課後。
⸻
帰る準備をしていると、
海人が教室を出ようとしていた。
⸻
(声かけようかな)
⸻
「海くん」
⸻
呼ぼうとした、その時。
⸻
友達が海人を呼ぶ。
⸻
「海人!帰ろう!」
⸻
「ああ!」
⸻
海人は振り向けなかった。
⸻
(……また言えなかった)
⸻
茉白は少しだけ寂しく笑う。
⸻
昇降口。
⸻
靴を履き替えた海人が歩き出す。
⸻
その時。
⸻
「海くん!」
⸻
今度はちゃんと届いた。
⸻
海人が振り向く。
⸻
「……また明日」
⸻
茉白は少し照れながら笑う。
⸻
海人も、
昨日と同じように笑った。
⸻
「おう。また明日」
⸻
それだけ。
⸻
たったそれだけなのに、
二人とも少しだけ安心した。
⸻
好きになったから。
⸻
前より近づいたはずなのに、
前より少しだけ話せなくなった。
⸻
でも、
そのぎこちない距離さえ、
二人には大切な時間になり始めていた。
⸻




