気づいてしまった気持ち
⸻
7月。
校庭の木々は青々と茂り、夏の日差しが教室へ差し込んでいた。
⸻
昼休み。
子どもたちは元気よく校庭へ飛び出していく。
⸻
「海人!サッカーやろう!」
「おう!」
⸻
海人は友達に呼ばれ、笑いながら走っていく。
⸻
茉白は教室の窓から、その様子をぼんやり眺めていた。
⸻
(今日も元気だな)
⸻
思わず笑う。
⸻
その時だった。
⸻
「海人くん!」
同じクラスの女の子が駆け寄る。
⸻
「すごかったね!」
「昨日の練習!」
⸻
海人は笑って答える。
⸻
「ありがとな!」
⸻
二人は少しだけ話している。
⸻
その光景を見た瞬間。
⸻
(……あれ)
⸻
胸の奥が、少しだけざわついた。
⸻
なんだろう。
⸻
少しだけ、
落ち着かない。
⸻
「茉白ちゃん!」
友達に呼ばれる。
⸻
「行こう!」
⸻
「……うん」
⸻
返事をする。
⸻
でも。
⸻
頭の中には、
さっきの海人の笑顔が残っていた。
⸻
放課後。
⸻
帰り支度を終え、
ランドセルを背負う。
⸻
廊下へ出ると、
少し前を海人が歩いていた。
⸻
その背中を見る。
⸻
保育園の頃。
一緒に遊んだ。
⸻
転びそうになった時、
手を伸ばしてくれた。
⸻
雨の日。
車道側を歩いてくれた。
⸻
運動会。
照れながら笑っていた。
⸻
掃除当番。
作品づくり。
遠足。
⸻
思い出が、
一つずつ浮かんでくる。
⸻
(……なんで)
⸻
こんなに思い出すんだろう。
⸻
海人が笑うと嬉しい。
⸻
海人がケガをすると心配になる。
⸻
海人が見つからないと、
探してしまう。
⸻
海人が他の子と話していると、
少しだけ胸が苦しくなる。
⸻
そこまで考えて、
茉白は足を止めた。
⸻
(……あ)
⸻
胸が、
ドクンと鳴る。
⸻
ゆっくりと、
ひとつの答えが浮かぶ。
⸻
(わたし……)
⸻
海人の背中を見る。
⸻
少しだけ照れながら笑う横顔。
⸻
保育園の頃から、
ずっと変わらない笑顔。
⸻
(海くんのこと……)
⸻
息をのむ。
⸻
(好きなんだ)
⸻
その瞬間。
⸻
胸の中が、
少しだけあたたかくなった。
⸻
でも同時に、
少しだけ恥ずかしくなる。
⸻
(好き……)
⸻
初めて気づいた、
自分の本当の気持ち。
⸻
「茉白?」
⸻
前を歩いていた海人が振り返る。
⸻
「どうした?」
⸻
「……ううん」
⸻
茉白は小さく首を振る。
⸻
そして、
少しだけ笑った。
⸻
「海くん」
⸻
「ん?」
⸻
「また明日ね」
⸻
「おう。また明日」
⸻
海人はいつものように笑う。
⸻
その笑顔を見て、
茉白も笑った。
⸻
夏の始まり。
⸻
この日、
茉白の初恋は、
静かに動き始めた。
⸻




