雨宿り
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六月。
朝は晴れていた空に、
昼過ぎから黒い雲が広がり始めた。
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帰りの会が終わる。
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「さようなら!」
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子どもたちが元気よく教室を飛び出していく。
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海人もランドセルを背負い、
昇降口へ向かった。
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その時。
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ザーッ……
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突然、大粒の雨が降り始める。
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「うわっ!」
「すごい雨!」
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子どもたちが足を止める。
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「雨やむかなぁ」
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海人も昇降口から空を見上げた。
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(すげぇ降ってる)
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その時。
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「海くん」
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聞き慣れた声。
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振り向くと、
茉白が傘を持ったまま立っていた。
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「まだ帰らないの?」
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「雨、すごいし」
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「たしかに」
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二人は昇降口の屋根の下で、
雨を眺める。
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しばらく沈黙。
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聞こえるのは、
雨音だけ。
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海人は少しだけ落ち着かない。
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(二人きりだ)
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教室では普通に話せるのに、
こうして静かになると緊張する。
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「海くん」
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「ん?」
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「運動会、お疲れさま」
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少し前のことなのに、
急にその話になる。
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海人は照れくさそうに笑った。
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「ありがと」
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「転ばなくてよかったね」
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「危なかったけどな」
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二人で少し笑う。
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また静かになる。
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雨はまだ止まない。
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茉白は校庭を見る。
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雨粒が水たまりを作っていた。
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「雨、好き?」
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ぽつりと聞く。
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海人は少し考える。
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「遊べなくなるから、あんまり」
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「そっか」
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「茉白は?」
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「静かだから好き」
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海人は少し驚く。
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(そんなこと考えるんだ)
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保育園の頃から知っているはずなのに、
まだ知らないことがある。
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それが少しだけ嬉しかった。
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その時。
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「あっ」
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雷が鳴る。
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少し大きな音。
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茉白の肩が、
ほんの少しだけ震えた。
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海人は気づく。
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「……雷、苦手?」
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茉白は少しだけ困ったように笑う。
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「ちょっとだけ」
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海人は何も言わない。
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ただ、
茉白の近くへ一歩だけ移動した。
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何かあったら守れるくらいの距離。
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茉白はそのことに気づく。
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(海くん……)
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何も言わない。
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でも、
その距離が少しだけ嬉しかった。
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しばらくすると、
雨が弱くなってきた。
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「帰れそうだね」
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「うん」
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二人は昇降口を出る。
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「じゃあね」
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「また明日」
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手を振って、
それぞれ違う方向へ歩き出す。
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少し歩いてから、
二人は同じタイミングで振り返った。
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目が合う。
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少し照れくさそうに笑って、
また前を向く。
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雨上がりの空には、
うっすら虹がかかっていた。
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海人も茉白も、
まだ気づいていない。
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一緒にいるだけで安心できること。
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その気持ちは、
雨上がりの虹みたいに、
少しずつ、
はっきりと形になり始めていた。
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