がんばれ
⸻
5月。
校庭では運動会の練習が始まっていた。
⸻
「今日はリレーの練習をします!」
先生の声に、
子どもたちが元気よく返事をする。
⸻
「はーい!」
⸻
海人は走るのが好きだった。
⸻
「海人くん速い!」
「絶対一番だ!」
友達も期待している。
⸻
海人は少し照れながら笑った。
⸻
「まあな!」
⸻
その様子を、
少し離れたところから茉白が見ていた。
⸻
(海くん、楽しそう)
⸻
練習が始まる。
⸻
「よーい、スタート!」
⸻
海人は勢いよく走り出す。
⸻
速い。
⸻
どんどん前の子を追い抜いていく。
⸻
「海人くん、がんばれー!」
⸻
応援の声が飛ぶ。
⸻
茉白も気づけば、
海人を目で追っていた。
⸻
(速い)
⸻
保育園の頃から元気だった。
⸻
でも、
こんなに速く走れるなんて知らなかった。
⸻
バトンを受け取る。
⸻
海人は最後まで全力で走る。
⸻
「一番!」
⸻
先生が笑顔で言った。
⸻
友達が集まる。
⸻
「海人すげー!」
⸻
海人は照れくさそうに笑う。
⸻
その時。
⸻
「海くん」
⸻
振り向く。
⸻
茉白だった。
⸻
「速かったね」
⸻
それだけ。
⸻
でも、
海人には十分だった。
⸻
「そ、そうか?」
⸻
「うん」
⸻
茉白は小さく笑う。
⸻
「かっこよかった」
⸻
その一言で、
海人の時間が止まる。
⸻
「……え?」
⸻
「?」
⸻
茉白は首をかしげる。
⸻
「どうしたの?」
⸻
「い、いや!」
⸻
海人は慌てて顔をそらす。
⸻
耳まで真っ赤だった。
⸻
「なんでもねぇ!」
⸻
そう言って走って行ってしまう。
⸻
「海人ー!」
友達が笑う。
⸻
「また顔赤いぞ!」
⸻
「うるせぇ!」
⸻
その声を聞いて、
茉白は少しだけ笑った。
⸻
(また照れてる)
⸻
最近、
海くんはよく照れる。
⸻
その理由は、
まだ分からない。
⸻
でも。
⸻
海くんが嬉しそうに笑っていると、
自分も少し嬉しくなる。
⸻
その日の帰り道。
⸻
海人は一人で歩きながら思い出していた。
⸻
「かっこよかった」
⸻
たった一言。
⸻
でも、
今日は何度も頭の中で繰り返される。
⸻
(……やべぇ)
⸻
顔が熱い。
⸻
その頃、
茉白も窓の外を眺めていた。
⸻
(海くん、喜んでたのかな)
⸻
自分では何気なく言った言葉。
⸻
でも、
海人のあんな表情を見ると、
なんだか胸が少しだけあたたかくなった。
⸻
二人とも、
まだ「好き」とは言わない。
⸻
でも、
お互いの一言で笑顔になれる。
そんな毎日が、
少しずつ増えていった。
⸻




