ふたりでひとつ
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ある日の生活科。
教室には色紙や折り紙、はさみが並べられていた。
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先生が笑顔で言う。
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「今日は二人組で、春の木を作ります!」
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「やったー!」
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子どもたちが嬉しそうに声を上げる。
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「先生がペアを決めますね」
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教室が少し静かになる。
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海人は心の中で思う。
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(……まさかな)
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期待しないようにする。
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「海人くんと、茉白ちゃん」
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「はい!」
「……はい」
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二人は顔を見合わせる。
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「よろしく」
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茉白が小さく笑う。
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「お、おう」
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海人は少し照れくさそうに返事をした。
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机をくっつける。
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大きな画用紙が一枚。
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「木を描こうか」
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茉白が鉛筆を持つ。
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「じゃあ俺、葉っぱ作る」
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役割はすぐに決まった。
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海人は折り紙をちぎって、
緑色の葉っぱをたくさん作る。
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「これくらい?」
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「うん」
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「もっといる?」
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「あと少し」
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短い会話。
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でも。
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一緒に作業している時間は、
なんだか心地よかった。
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その時。
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海人が勢いよく立ち上がる。
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「あっ」
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机にひじが当たる。
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のりが倒れた。
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「あー!」
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画用紙に少しだけ、のりがついてしまう。
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海人の顔が青くなる。
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「ご、ごめん!」
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慌てて謝る。
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茉白は画用紙を見る。
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少しだけ考えて、
笑った。
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「大丈夫」
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「え?」
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「ここ、お花貼れば見えないよ」
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そう言って、
ピンク色の折り紙を持ってくる。
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のりの跡を隠すように、
花を貼る。
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「ほら」
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「……すげぇ」
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海人は思わず声を漏らした。
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「ありがとう」
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「うん」
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そのやり取りを、
先生が見ていた。
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「二人とも協力できてるね」
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海人は少し照れる。
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茉白も少しだけ恥ずかしそうに笑った。
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作品が完成する。
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大きな木。
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緑の葉っぱ。
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たくさんの花。
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「きれい!」
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先生が拍手する。
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海人は作品を見る。
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(一人じゃ、こんなのできなかったな)
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隣を見る。
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茉白も同じ作品を見て笑っていた。
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放課後。
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作品は教室の後ろに飾られた。
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帰る前。
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二人は自然と作品の前で立ち止まる。
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「上手にできたね」
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茉白が言う。
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「うん」
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海人も頷く。
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しばらく二人で眺める。
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言葉は少ない。
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でも、
一緒に作った木を見るだけで、
なんだか嬉しかった。
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教室を出る頃には、
夕日が窓から差し込んでいた。
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海人は心の中で思う。
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(また茉白と一緒になれたらいいな)
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茉白も、
同じように思っていた。
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(海くんとだと、なんか安心する)
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まだ誰にも言えない、
小さな気持ち。
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その気持ちは、
春の終わりと一緒に、
少しずつ育っていった。
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