掃除当番
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遠足が終わって数日。
教室にも、いつもの日常が戻っていた。
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帰りの会。
先生が名簿を見ながら言う。
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「今日は掃除当番を発表します」
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子どもたちが先生を見る。
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「黒板担当は……」
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「海人くん」
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「はい!」
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元気よく返事をする。
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「それから、茉白ちゃん」
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「はい」
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海人が少しだけ目を丸くする。
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(一緒?)
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掃除が始まる。
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友達は机を運んだり、
ほうきをかけたりしている。
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海人は黒板消しを持つ。
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茉白は濡れた雑巾を持ってきた。
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「はい」
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「ありがと」
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短い会話。
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黒板を拭く。
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「そこ、まだ白いよ」
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茉白が指をさす。
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「え?」
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海人が見上げる。
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「あ、ほんとだ」
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もう一度拭く。
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「これでいい?」
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「うん」
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小さく頷く茉白。
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静かな時間。
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教室には、
ほうきの音だけが響いている。
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海人は少しだけ横を見る。
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茉白は窓を拭いていた。
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夕日が窓から差し込む。
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その光に照らされて、
茉白の横顔が少しだけ明るく見えた。
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(……きれい)
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思った瞬間。
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「海くん?」
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「っ!」
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急に名前を呼ばれて、
海人はびくっとする。
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「ぼーっとしてる」
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「あ、してねぇし!」
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慌てて黒板を拭き始める。
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茉白は少しだけ笑った。
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「変なの」
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またその一言。
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でも。
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海人は嫌じゃなかった。
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掃除が終わる。
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先生が教室を見回す。
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「きれいになったね」
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「ありがとう」
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「はーい!」
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みんなが帰る準備を始める。
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海人もランドセルを背負う。
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すると。
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「海くん」
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振り向く。
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茉白だった。
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「さっきありがとう」
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「え?」
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「黒板」
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海人は少し考えて、
笑った。
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「どういたしまして」
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茉白も笑う。
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ほんの数秒。
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それだけのやり取り。
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でも。
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二人には、
その時間が少しだけ特別だった。
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教室を出る。
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廊下を歩きながら、
海人は一人で思う。
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(掃除当番って、悪くねぇな)
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一方、
茉白も小さく笑っていた。
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(海くんと掃除、楽しかったな)
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まだ恋とは言えない。
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でも。
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一緒にいる時間が、
少しずつ、
二人にとって大切なものになり始めていた。
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