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雨の日


梅雨が近づき始めた頃。


外は雨。


今日は園庭では遊べなくて、教室の中がいつもより少し騒がしかった。


積み木、絵本、お絵描き。


それぞれ好きな遊びをしている。


茉白は窓際の机で、クレヨンを並べていた。


白い紙の上には、大きな空。


その下に、小さな花。


隣の女の子が目を丸くする。


「ましろちゃん、絵うまいね」


「そう?」


「髪の色もきれいだし、なんかおひめさまみたい」


「おひめさまじゃないよ」


少し困ったように笑う。


その時——


「なに描いてんの?」


後ろから急に声がした。


振り向くと、海人。


いつの間にか後ろに立っていた。


茉白は少しだけ警戒した顔をする。


「……べつに」


紙を隠すように腕を乗せる。


海人はそれを見て、「なんだよ」と少し不満そうにする。


「見ねーよ」


「ほんと?」


「ほんと」


疑われるのが嫌だったのか、海人は少しムッとした顔になる。


でも次の瞬間、別の子に呼ばれる。


「海人!ブロックやろー!」


「あー、今行く!」


すぐそっちへ行こうとして——


ふと、もう一度だけ茉白の紙を見る。


端っこに描かれていた、小さな青い花。


「……それ、いいじゃん」


ぽつり。


それだけ言って、走っていく。


茉白は一瞬固まった。


(え)


思わず、海人の背中を見る。


でも海人はもう友達の輪の中で、さっきの言葉なんて気にしてない顔で笑っていた。



「どうしたの?」


隣の子に聞かれて、茉白ははっとする。


「……なんでもない」


そう答える。


でも、クレヨンを持つ指が少しだけ止まっていた。



その日の午後。


自由遊びの時間。


海人は男の子たちと走り回っていた。


でも時々、ふっと視線が動く。


窓際。


静かに本を読んでいる茉白。


(またあそこいる)


自分でも理由はわからない。


ただ、なんとなく目に入る。


気づくと探してる。


でも、それを“特別”だとはまだ思っていない。



一方、茉白も。


(海人って、急によく喋る)


最初はうるさいだけだと思ってた。


でも最近、たまに話しかけてくる。


変なやつ。


落ち着きないし、声大きいし。


なのに——


たまに、変に優しい。


(……よくわかんない)


そう思いながら、また本に目を落とす。



まだ、恋には遠い。


でも、“気になる”の種だけが、


ゆっくり、静かに落ち始めていた。

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