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初めて知った名前


数日後。


園庭では、いつものように子どもたちが走り回っていた。


「海人ー!こっち!」


「待てって!」


元気な声が響く。


海人は泥だらけになりながら笑っていた。


転んでも気にしない。


怒られても、すぐまた遊ぶ。


そんな中——


「ましろちゃん、これ一緒につくろ!」


砂場で声をかけられる茉白。


「いいよ」


しゃがみ込んで、小さな山を作り始める。


細い指で丁寧に形を整えていく姿は、同い年の子どもたちの中では少し落ち着いて見えた。


「うわ、じょうず」


「ほんとだ!」


褒められて、茉白は少しだけ笑う。


その時。


走っていた海人のボールが、ころころと砂場まで転がってきた。


「あ」


勢いよく止まる海人。


茉白の作っていた砂の山のすぐ横で、ボールが止まっている。


一瞬、静かになる空気。


海人はボールを拾おうとして——


ちら、と山を見る。


「……壊れてねーじゃん」


誰に言うでもなく呟く。


茉白はむっとした顔で海人を見る。


「壊したら怒る」


「壊してねーし」


「今しようとしてた」


「してねーって」


即答。


その言い方がなんかムカつく。


茉白はじっと海人を見る。


海人も負けじと見返す。


数秒の沈黙。


でも——


「海人ー!早く!」


向こうから呼ばれて、海人は「あ、やべ」と振り返る。


「じゃーな」


軽く言って、ボールを抱えたまま走っていく。


茉白はその背中を見て、少しだけ眉を寄せた。


(なんなの、ほんとに)


でも、不思議と嫌ではない。



その日の帰り。


先生に名前を呼ばれていた声が耳に入る。


「海人くん、お迎え来たよー」


(海人っていうんだ)


初めて知った名前。


なんとなく頭の中で繰り返す。


“かいと”。


別に覚えるつもりなんてなかったのに。



一方の海人も、靴を履きながらぼんやり考えていた。


(ましろ、か)


先生が呼んでいた名前。


髪の綺麗なやつ。


すぐムッとするやつ。


でも泣かないやつ。


「海人、帰るよー!」


「はーい!」


すぐに走っていく。


でも、帰る直前。


一瞬だけ、教室の奥を見る。


そこには、友達と笑っている茉白がいた。


海人は何も言わず、そのまま帰っていく。



まだ、話すのは少しだけ。


でももう、


お互い“名前だけは知っている”。



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