入学
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春。
新しいランドセル。
少し大きい教室。
少しだけ、違う空気。
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小学一年生。
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教室の前で名前を呼ばれて、
それぞれ席につく。
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茉白は、窓側の席。
ランドセルを置いて、
静かに座る。
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髪は肩にかかるくらいまで伸びて、
前より少しだけ大人っぽく見える。
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(小学校か)
特別な感情はない。
でも、
少しだけ緊張している。
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ふと、教室を見渡す。
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(……いる)
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海人。
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少し離れた席。
前よりほんの少しだけ背が伸びてる。
でも中身は——たぶん変わってない。
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友達ともう話してる。
笑ってる。
元気なまま。
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(……あのまんまだ)
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少しだけ安心する。
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でも。
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(遠い)
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席。
周りの人。
空気。
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保育園のときみたいに、
簡単に近づける距離じゃない。
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一方、海人。
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「お前どこ座ってんの?」
「ここ!」
「まじか!」
騒ぎながらも、
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(……あ)
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見つける。
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窓側。
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茉白。
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(……伸びてる)
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髪。
前より。
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なんか、
ちょっと違う。
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(……なんだそれ)
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分からないけど、
目が止まる。
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でも。
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(……遠い)
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簡単に話しかけに行ける感じじゃない。
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周りの目もある。
席も離れてる。
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(……まあいいか)
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そう思って、
一旦目を逸らす。
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でも——
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授業中。
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ふとした瞬間に、
また見てしまう。
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(……また見てる)
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茉白も、少しだけ気づく。
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目が合いそうになって、
逸らされる。
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(……なんでまだ見てくるの)
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でも前とは違う。
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(……でも)
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少しだけ、
それを探してる自分がいる。
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(……いるかな)
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ちらっと見る。
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いないと、
少しだけ引っかかる。
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(……なにこれ)
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まだ名前は変わらない。
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「海くん」
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ちゃんと“くん”はつく。
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でも距離は、
前より少しだけ遠い。
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話す回数も減った。
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でも。
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完全に離れたわけじゃない。
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目が合う
ちょっとした会話
ぎこちない空気
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全部が、
前より“意識してる距離”になってる。
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