卒園式
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3月。
卒園式当日。
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空はよく晴れていた。
まるでみんなを祝福しているみたいな青空。
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保育園の門には、
大きく
「そつえんしき」
の文字が飾られている。
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いつもと違う服。
いつもと違う雰囲気。
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子どもたちも、
なんだか少し緊張していた。
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海人もその一人だった。
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「海人!」
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友達に呼ばれる。
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「おう!」
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返事をする。
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でも、
気になっているのは別のこと。
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(茉白まだかな)
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無意識だった。
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気づけば探している。
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その時。
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門の向こうから、
一人の女の子が歩いてくる。
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茉白だった。
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春の風が髪を揺らす。
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海人は一瞬だけ見とれた。
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(……あ)
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胸が高鳴る。
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茉白は海人に気づく。
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そして。
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小さく笑った。
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「おはよう、海くん」
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海人、固まる。
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「お、おう」
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それだけ言うのが精一杯だった。
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茉白は不思議そうに首をかしげる。
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「どうしたの?」
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「なんでもねぇ」
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なんでもなくない。
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朝から心臓がうるさい。
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式が始まる。
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先生の話。
卒園証書。
歌。
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みんな真面目に座っている。
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海人も頑張っていた。
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でも。
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時々、
隣の列の茉白が目に入る。
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(今日で終わりなんだな)
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そう思うと、
少しだけ寂しかった。
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卒園の歌が始まる。
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みんなで歌う。
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海人は途中で、
少しだけ声が詰まりそうになった。
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楽しかったこと。
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笑ったこと。
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怒られたこと。
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転んだこと。
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そして——
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茉白と過ごした時間。
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全部が頭をよぎる。
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式が終わった。
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保護者たちが拍手する。
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先生たちは泣いている。
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友達同士で集まって話している。
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そんな中。
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海人は園庭へ出た。
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最後に、
少しだけ保育園を見たかった。
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砂場。
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ブランコ。
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滑り台。
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たくさん遊んだ場所。
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「海くん」
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後ろから声。
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振り返る。
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茉白だった。
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「いた」
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少し安心したように言う。
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海人は笑った。
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「なんだよ」
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茉白は少し考える。
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それから、
ぽつりと言った。
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「卒園しちゃったね」
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海人は空を見る。
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「そうだな」
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少しだけ寂しい。
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でも。
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「小学校でも会えるだろ」
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そう言う。
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茉白は一瞬だけ目を丸くして、
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ふわっと笑った。
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「うん」
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その笑顔を見て、
海人は思う。
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(よかった)
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卒園しても。
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これで終わりじゃない。
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また会える。
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また話せる。
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また、
茉白と一緒にいられる。
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春の風が吹く。
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桜のつぼみが、
少しだけ膨らみ始めていた。
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こうして、
海人と茉白の保育園の日々は終わる。
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でも。
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二人の物語は、
まだ始まったばかりだった。
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【保育園編・完】
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