卒園前日
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3月。
明日は卒園式。
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朝から教室は少しだけ落ち着かなかった。
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「明日で最後だね!」
「小学校楽しみ!」
「ランドセル持ってくる?」
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あちこちでそんな話が聞こえる。
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海人も友達と話していた。
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でも。
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いつもみたいには騒げなかった。
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(明日で最後か)
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保育園最後の日。
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そう考えると、
なんだか変な気持ちになる。
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午前中。
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卒園式の最後の練習。
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みんな真面目に並んでいた。
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先生の目も少しだけ赤い。
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「みんな、本当に大きくなったね」
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先生がそう言う。
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教室が少し静かになる。
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海人は隣を見る。
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茉白。
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真面目な顔で前を向いている。
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その横顔を見て、
海人の胸が少しだけ苦しくなった。
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昼休み。
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保育園最後の昼休み。
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海人は友達と遊んでいた。
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でも途中で、
ふと足を止める。
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茉白を探していた。
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もう無意識だった。
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いた。
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いつもの木の近く。
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風に髪が揺れている。
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その姿を見つけると、
少し安心する。
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「海くん?」
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声。
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茉白だった。
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気づかれていたらしい。
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「な、なんだよ」
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少し慌てる。
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茉白は不思議そうな顔をする。
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「最近よくわたし探してるよね」
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海人、固まる。
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「……は?」
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「違うの?」
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違わない。
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でも認められるわけがない。
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「探してねーし!」
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即答。
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顔は真っ赤。
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「そう?」
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茉白は首をかしげる。
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「変なの」
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またそれだ。
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でも今日は、
少しだけ違った。
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「海くん」
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「ん?」
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「明日で最後だね」
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その言葉に、
海人は黙る。
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最後。
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その響きが妙に重かった。
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「……そうだな」
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二人とも少しだけ空を見上げる。
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春の空。
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少しだけ暖かい風。
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「でも」
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茉白がぽつりと言う。
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「小学校でも会えるよね」
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海人は目を見開く。
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茉白は当たり前みたいに言っただけだった。
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でも海人には、
その一言がすごく嬉しかった。
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「当たり前だろ」
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少し笑う。
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「そうだよね」
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茉白も笑う。
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それだけ。
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それだけなのに、
二人とも少しだけ安心した。
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帰りの会。
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先生が最後の挨拶をする。
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「明日は卒園式です」
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「みんな、元気に来てね」
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「はーい!」
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子どもたちの返事が響く。
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そして。
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保育園最後の一日が終わった。
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海人はまだ知らない。
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明日の卒園式が、
ずっと忘れられない一日になることを。
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茉白もまだ知らない。
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海人と過ごしたこの時間が、
これから先も、
大切な思い出として残り続けることを。
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