保育園最後の外遊び
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3月。
空はよく晴れていた。
少し冷たい風の中にも、春の匂いが混ざっている。
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「今日はたくさん外で遊びましょう!」
先生の声に、
子どもたちは一斉に歓声を上げた。
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「やったー!」
「鬼ごっこする!」
「ブランコ空いてる!」
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みんな一斉に園庭へ飛び出していく。
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海人も走り出そうとして、
ふと足を止めた。
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(最後かもな)
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いつも遊んでいる園庭。
砂場。
ブランコ。
滑り台。
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小さい頃からずっと遊んできた場所。
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そんなことを考えるなんて、
少し前の海人ならありえなかった。
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「海くん!」
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声がした。
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振り向く。
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茉白だった。
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海人の心臓が跳ねる。
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まだ慣れない。
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「な、なに」
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「先生が呼んでる」
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「あ」
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どうやら話を聞いていなかったらしい。
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茉白は少し笑う。
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「ちゃんと聞いてなかったでしょ」
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「聞いてたし」
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「うそ」
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即答。
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海人は少しむくれる。
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そのやり取りが、
最近は当たり前になっていた。
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しばらくして。
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鬼ごっこが始まった。
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「海人鬼ー!」
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「なんでだよ!」
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みんなが笑う。
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海人も笑いながら走り出した。
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でも。
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視界の端に、
茉白がいる。
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友達と一緒に走っている。
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楽しそうに笑っている。
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その姿を見ると、
なんだか嬉しかった。
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鬼ごっこの後。
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少し疲れて、
二人ともブランコの近くに座る。
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珍しく、
周りに誰もいなかった。
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風が吹く。
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静かな時間。
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「もう卒園だね」
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ぽつりと茉白が言った。
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海人は少し驚く。
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茉白からそういう話をするのは珍しかった。
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「そうだな」
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短く返す。
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茉白は空を見上げる。
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「なんか変な感じ」
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「なにが?」
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「ずっとここにいたから」
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海人も園庭を見る。
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砂場。
滑り台。
ブランコ。
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どれも見慣れた景色だった。
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「たしかに」
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珍しく意見が一致する。
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茉白は少し笑った。
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海人もつられて笑う。
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帰る時間。
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先生が子どもたちを呼ぶ。
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「みんなー!そろそろお部屋入るよー!」
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「はーい!」
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子どもたちが走り出す。
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海人も立ち上がる。
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その時。
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「海くん」
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呼ばれる。
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振り返る。
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茉白がいた。
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「ん?」
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「また明日ね」
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当たり前みたいな一言。
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でも。
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海人の顔が少し赤くなる。
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「お、おう」
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それだけ返す。
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茉白は気づいていない。
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でも海人は、
その「また明日ね」が、
なんだかすごく嬉しかった。
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卒園まで、
あと少し。
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二人の保育園生活も、
ゆっくり終わりへ近づいていた。
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