卒園式の練習
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3月。
卒園式まで、あと少し。
教室では毎日のように練習が行われていた。
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「みんな並んでくださーい」
先生の声が響く。
子どもたちがそれぞれの場所へ向かう。
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海人も列に並ぶ。
でも最近は違った。
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(茉白いるかな)
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気づけば探している。
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少し前までなら考えもしなかったこと。
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「あ」
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見つけた。
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前の列。
茉白。
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海人は少しだけ安心する。
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すると先生が言った。
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「今日は並ぶ場所を確認するよ」
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子どもたちが移動する。
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その結果。
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海人の隣に、
茉白が来た。
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「……」
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「……」
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海人の心臓がうるさい。
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茉白は普通。
本当に普通。
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「海くん」
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名前を呼ばれる。
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「な、なんだよ」
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思わず声が裏返る。
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茉白は首をかしげた。
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「歌詞覚えた?」
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またその話だった。
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「覚えてるし」
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「ほんと?」
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疑いの目。
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「ほんとだって」
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むきになる海人。
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茉白は少し笑う。
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「じゃあ大丈夫だね」
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それだけ。
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それだけなのに、
海人は嬉しくなってしまう。
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練習が始まる。
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歌を歌う。
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途中。
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海人は少しだけ隣を見る。
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茉白は真面目な顔で歌っていた。
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春の光が窓から差し込む。
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揺れる髪。
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やわらかい横顔。
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海人は見とれてしまう。
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その時。
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「海人くん」
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先生の声。
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「はい!?」
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教室中が笑う。
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どうやら歌が止まっていたらしい。
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海人の顔が真っ赤になる。
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茉白も思わず吹き出した。
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「ふふっ」
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小さな笑い声。
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海人はさらに赤くなる。
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でも。
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その笑顔を見られたことが、
少しだけ嬉しかった。
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卒園まで、
あと少し。
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海人はまだ知らない。
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この何気ない時間が、
あと少しで終わってしまうことを。
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そして茉白もまた、
最近は気づくと海人が隣にいることを、
どこか当たり前に感じ始めていた。
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