初めての呼び方
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教室の空気はいつもと変わらない。
みんな遊んでいるし、
先生も何か準備をしている。
なのに——
海人だけは全然いつも通りじゃなかった。
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(海くん……?)
頭の中でぐるぐるする。
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(なんで急に)
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さっきの言葉が離れない。
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「海人ー!」
友達に呼ばれる。
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「お、おう」
返事をする。
でも遅い。
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「どうした?」
「なんでもねぇ」
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なんでもなくない。
むしろ大変だった。
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海人はちらっと茉白を見る。
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茉白は窓際に戻っていた。
もう普通の顔。
さっきのことなんて気にしていないみたいに。
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(俺だけかよ)
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なんか悔しい。
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その時。
先生が手を叩く。
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「みんなー!お片付けするよー!」
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「はーい!」
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子どもたちが一斉に動き出す。
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茉白も席を立つ。
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高い棚の上にある箱を取ろうとして、
少し背伸びする。
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届かない。
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「ん……」
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もう少し。
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その時。
横から手が伸びる。
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「ほら」
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海人だった。
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箱を取って、そのまま渡す。
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「……ありがとう」
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茉白が受け取る。
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少しだけ目が合う。
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海人は慌てて目を逸らした。
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「別に」
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ぶっきらぼう。
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茉白はその反応を見て、
少しだけ首をかしげる。
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(また変)
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最近ずっとそう。
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話しかけてくるのに、
目を合わせない。
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近くに来るのに、
すぐ離れる。
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意味が分からない。
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でも。
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「海くん」
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無意識だった。
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呼んでから気づく。
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海人がぴたりと止まる。
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「な、なんだよ」
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また顔が赤い。
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茉白は不思議そうに見る。
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「箱、重くない?」
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本当に聞きたかっただけ。
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海人は数秒黙って、
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「全然」
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と答える。
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そのまま箱を運んでいく。
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でも耳は真っ赤だった。
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茉白はその背中を見送る。
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(やっぱり変)
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そう思うのに。
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気づくと少し笑っていた。
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海人も気づいていない。
茉白もまだ気づいていない。
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でも、
海人の片思いだけだったはずの距離は、
ほんの少しだけ、
近づき始めていた。
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