特別に変わった瞬間
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放課後前の、少し静かな時間。
みんながそれぞれ遊んでいて、
教室の中はいつもより落ち着いていた。
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茉白は窓際に立って、外を見ていた。
ぼーっと。
特に何か考えてるわけでもないのに——
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(……また)
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気づく。
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視線。
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振り向かなくても分かる。
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(いる)
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海人。
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ゆっくり振り向く。
やっぱり目が合う。
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一瞬。
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でも今日は——
逸らされない。
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「……なに」
いつも通りに聞く。
でも少しだけ、声がやわらかい。
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「……いや」
海人は少し迷って、
でも逸らさない。
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「別に」
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短い会話。
それだけ。
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なのに。
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(なんでだろ)
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前と違う。
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目が合う時間が長いだけで、
なんか変。
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心臓が、少しだけうるさい。
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(……なんで)
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少し前のことを思い出す。
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何回も見てくる
変な話し方
避けるくせに、近くに来る
さっきの、目
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(……あ)
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ゆっくり、理解が追いつく。
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(わたし)
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視線の先。
海人。
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(この人のこと、)
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言葉になる。
まだ小さいけど、
ちゃんと形になる。
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(気になる)
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その瞬間。
少しだけ息を止める。
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理由は分からない。
でも——
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ただの“変なやつ”じゃなくなった。
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ちゃんと、意識してる。
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海人が少しだけ近づく。
ぎこちないまま。
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「……おまえさ」
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その言い方に、
少しだけ引っかかる。
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(……あ)
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今まで気にしてなかったのに、
急に気になる。
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呼び方。
距離。
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茉白は少しだけ迷って、
ほんの一瞬だけ間を置く。
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そして——
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「なに、海くん」
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言ってから、
自分で少し驚く。
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(……あ)
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なんで今、
くん、つけた?
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でも、取り消さない。
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海人の方は——
完全に固まる。
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「……は?」
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一拍遅れて、
一気に顔が赤くなる。
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「なんだよそれ」
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でも否定じゃない。
ただの動揺。
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「べつに」
茉白は少しだけ目を逸らす。
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「なんか、そういう気分だっただけ」
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嘘じゃない。
でも全部でもない。
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(……なんか変)
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さっきまでと、
同じはずなのに。
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少しだけ距離が変わった気がする。
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名前の呼び方、ひとつで。
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でもその変化を、
まだちゃんと説明できない。
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ただひとつ分かるのは——
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もう、
前と同じ関係じゃないってこと。
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